ところでコンパウンダーである瀧澤にとって、タイヤの性能として求められる要素はどのように位置づけられているのだろうか。まずは"摩耗"について聞いてみた。
「競技用タイヤについては、摩耗というものはグリップ力が上がると救われるものなのです。
一般のタイヤでは走行することでタイヤが回転して摩耗するのですが、競技用タイヤの場合はグリップの不足に起因して横滑りすることで摩耗が進むケースが多いですね。例えばフロントのグリップが足りないから、大きい舵角を与えて曲がることで摩耗が進む、というように。
これは特にジムカーナで顕著に現れるので、今回のG/2Sでも至上命題はスタートからフィニッシュまで持続する高いグリップの実現にありました。」
一般的にはグリップと摩耗は相反する、つまりグリップを高めると摩耗も厳しくなると捕らえられがちの面もあるだけに、瀧澤が語った内容は興味深い。
しかし、当然だが闇雲にグリップばかり上げれば良いという簡単なものでもない。
「ソフトコンパウンドにするのにも限度があります。タイヤには耐久性も求められるので、どこまで突き詰めて両立させるのかがコンパウンダーの仕事の"肝"であるとも言えるでしょう。
実はコンパウンダーにとっての大敵は"熱"です。ある程度の発熱が無ければグリップを得られませんが、熱が上がりすぎるとフィーリングが悪化します。ゴムは温かくなると柔らかくなって剛性が落ちるものなのです。
ここを官能評価とタイムなどのデータで突き詰めていくのですが、走りを見た上でドライバーとの意見交換を重ねていきます。」
相反する、ともに譲ることの出来ない性能を両立させるためにタイヤとしてはどのような特性を持つものがベストなのか。コンパウンダーとしての理念を瀧澤はこう語る。
「競技用タイヤで言えば、全部が平均点のタイヤというのが一番良くないと思っています。
しかしA050はユーザー層が幅広いので、極端にどこかを"尖らせる"ことは出来ません。
とは言っても戦える武器であるためには"尖っている"部分が必要なのも事実です。全部が平均点のタイヤで勝つことは難しいでしょう。
A050は接地感とグリップはコンパウンドで性能を補えたと思います。そしてパターンで力強さを実現し、構造で整えて仕上げたという感じでしょうか。」
コンパウンダーとしての"哲学"を持ちつつ、パターンや構造といった要素と連携して高い性能を実現したADVAN
A050。
なかなか表に出てこないコンパウンダーという立場の瀧澤だが、自信を持ってA050、そして今回デビューしたG/2Sコンパウンドの性能を語った。
「コンパウンダーとして研究や実験、そして実戦を重ねてきたなかで着実にコンパウンドを進化させてきました。
その結果として優勝や表彰台を獲得したときは素直に嬉しく思いますし、それが仕事の"やり甲斐"にもつながっています。
印象に残っているのは2005年のSUPER GT。オフシーズンのテストではグリップの持続性をテーマに改良を進めていたのですが、コンパウンド改良の評価をきっちりと重点的に行って出来上がったものをシーズン開幕戦の岡山ラウンドに投入しました。
これが狙い通りの性能をレースで見せて、全くタレることなく優勝を飾りました。この時は、良い意味で『はまった』という感じで、とにかく結果につなげられて良かったと素直に思いました。」
瀧澤は"コンパウンドは開発出来る範囲がとても広く、やり甲斐のある仕事"と最後に付け加えた。
担当者それぞれが自信を持ち、かつ決して奢ることなく日々開発を続けて進化を続けるADVAN。その性能は世界中のモータースポーツフィールドで輝かしい栄光の歴史となって実証されていく。