チーム・ヨコハマ EVチャレンジ 2013 [パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム]
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マシンの特徴とスペック マシンの特徴とスペック マシンの特徴とスペック マシンの特徴とスペック 2013年の"パイクスピーク"
ヨコハマタイヤ・挑戦の歴史
塙郁夫選手が抱く闘志
マシンの特徴とスペック
2010年からヨコハマタイヤとともにパイクスピークへの挑戦を続けている、オリジナルEV(電気自動車)レーシングマシンが「HER-02」。世界的なオフロードレーサーでもある塙郁夫選手が、自ら設計・デザインして造り上げたマシンである。
一般的にレーシングマシンは、圧倒的なハイパワーや優れたエアロダイナミクス性能を誇り、スペックシートにもそれらを誇示する数字が並ぶものだ。しかし「HER-02」を紹介する上では、そういった数字やフレーズは影が薄い。
「HER-02」が求める新世代のEVレーシングカーが理想とするのは、「効率に優れた走行性能」と「夢のあるスタイル」なのだから。
Chapter 1 : エクステリアデザイン
一言で表せば、シングルシーターのフォーミュラスタイルとなる「HER-02」のエクステリアデザイン。そのモチーフは、ずばり「昆虫」である。塙選手はパイクスピーク参戦専用車としてこのマシンを造り上げるにあたって、「今のレースファンが格好良いというデザインはいらない」という、とても大胆なコンセプトを最初に打ち立てた。

性能だけを追求すると、一般的に誰もが想像するフォーミュラ・カーやプロトタイプ・カーに行き着く。しかし、塙選手は特に未来を担う子供たちが格好よいと思ってくれるデザイン、大人になったら乗ってみたいと感じてくれるマシンを造り上げたいという思いで「HER-02」を仕立てていった。

例えばリアのウィング。ダウンフォースを発生させ、接地能力を高めることがウィングを備える理由であるが、このウィングは「鈴虫が鳴いている時の羽根のかたち」をモチーフとしたデザインを優先している。それが結果としてエクステリアの大きなアクセントとなり、全体的なシルエットは昆虫を彷彿とさせるものになっているのだ。

また、コクピットの両脇に備わるヘッドライト。これはジェット戦闘機に備わっているマシンガンの発射口をイメージしている。そうなったいきさつは、マシン開発当時の関係者に航空ファンがおり「ジェット戦闘機が格好良くて好き」という一言がキッカケだったという。
その流れから、全体的に翼と胴体が一体化している「ブレンテッド・ウィング」という航空機で用いられるデザイン手法も採り入れられているが、そこでエアロダイナミスク性能が最重視されたというわけではなく、あくまでも「格好よいマシンを造りたい」という思いでデザインされている。

塙選手は全体的なデザインについて、「せっかくのEVによる新しいチャレンジなのだから、新しさや楽しさが無いとダメでしょう」と笑いながら語ったが、そこにこめられた"夢"こそが「HER-02」として具現化しているのだ。
Chapter 2 : モーター
EVにおいて、とても重要なパーツのひとつであるモーター。「HER-02」ではアメリカのACプロパルジョン社製のものが採用されている。この企業はEV界の雄ともいわれるベンチャー企業で、世界各地の自動車メーカーや官公庁からの委託を受けて研究開発を行っている。

「HER-02」には同社の交流モーターを搭載しているが、2010年と2011年は200kW(272ps)を発生する空冷式のものだった。ただし、EVレーシングの歩みはモーターの発熱との戦いでもあり、2011年にはモーターの内側と外側の両方から冷やす二重空冷システムに進化した。

そして2012年には、最新の液冷式プロトタイプを採用。これはパイクスピークの路面が同年から全面舗装化されることにより、ラップタイムの向上が見込まれ、その結果としてモーターの発熱も厳しくなるであろうと言う展開に対応したものだ。例えば空気に対して水は20倍の速さで熱を奪う。しかし、一方では冷却系統を設ける必要があるため、機構的な複雑化とコストアップもついてまわることになる。

そのような背景を勘案した上で、塙選手はACプロパルジョン社が世界でひとつしかない最新のプロトタイプを提供するという申し出を受けて採用した。この"第三世代"と呼ばれるモーターは、結果的にはパイクスピークという想像以上に過酷な舞台で想定通りの性能を発揮できない面もあった。

そこで2013年は、この液冷式モーターをさらに改良。最高出力のスペックは前年と同じ190kW(258ps)となるが、冷却性能の向上によりスタートからフィニッシュまで持てるポテンシャルを余すところなく発揮することが期待されている。
Chapter 3 : バッテリー
モーターと並んで、EVを構成する重要なパーツがバッテリーだ。EVを一般ユーザーも広く購入出来るようになった今日では、EVの性能を航続距離で語る機会も多く、バッテリーは従来のガソリンエンジン車における燃料タンクと同義に捉えられている風潮も見受けられる。

しかし塙選手によると、その捉え方は誤りだと言う。モーターはパワーを伝えるための媒体であり、EVにおけるエンジンに相当するものがバッテリーであるというのだ。つまり、一口にバッテリーと言っても様々なタイプがあり、目的に応じて最適なものを採用することがまずは重要なポイントとなる。

その点、「HER-02」では当時の三洋電機(現:パナソニック)製の「18650」と呼ばれる円筒形のものを6700本つないで搭載している。このバッテリーはラップトップパソコンなどにも用いられている型式のもので、電気街などの店頭でも売られているものだ。しかし、厳密には同じ型式でも「容量型」と「出力型」があり、長時間使用に適した前者がパソコンなどに使われている一方、短時間で大きなパワーを使う電動工具などに後者が用いられている。

「HER-02」はパイクスピークの限られたコースを短時間に走ることが前提のため、「出力型」のバッテリーを採用。ガソリンエンジンで言えばDOHCのようなパワフルなものを搭載している、という例えがわかりやすいかもしれない。
このバッテリーを車両開発の時点で、可能な限り搭載した「HER-02」。全体容量は37kWh(385V)となり、これは一般家庭で使用する4日分の電気に相当する。ゆえにラップタイムが向上している現在でも搭載量に余裕があり、さらに劣化もほとんど見られないことから、2010年から現在まで同じバッテリーを継続使用しているのだ。
Chapter 4 : 足まわり、駆動系、コクピット
このほかの「HER-02」の特徴を短くご紹介していくと、足回りにはBaja1000などのオフロードレースで実績のあるKING SHOCK社のショックアブソーバーとサスペンションを採用。完全舗装化される以前のパイクスピークではダート区間が占める割合も大きかったため、前後とも250mmとロングストローク仕様になっている。
もちろんショックアブソーバーは減衰力調整式で、22段階の調整が可能。完全舗装となった現在のパイクスピークでは、それ以前よりも硬めのスプリングを用いているが、足をしっかり動かす方向のセットアップに仕上げていく。

ガソリンエンジン車などでは必須の変速機構(トランスミッション)は存在せず、モーターから減速機、デファレンシャルギアを介して駆動力は伝わっていく。デファレンシャルギアはトルセン式となり、1ギアで走行中の変速は無いために2ペダル仕様。レーシングカートのようなコクピットの足回りとなり、右足がスロットル、左足がブレーキとなる。

コクピットではステアリングの先に小さな液晶パネル(右写真)が備わる。ここにはスピードやバッテリーの残量、電流の状態、モーター温度などがリアルタイムで表示される。

モーターの発熱が厳しい場面では、塙選手によると進行方向の先を見るよりもこの液晶モニターを睨みながらドライビングすることが多かったという。もちろん今年の挑戦は、改善された液冷式モーターが搭載されることになるため、塙選手の視界にはコロラドの青い空と白い雲、そして156個のコーナーだけが見えていることになるだろう。
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