奴田原選手が参戦しているラリーという競技は、コ・ドライバーを乗せて走る。コ・ドライバーは進む先の状況を書き留めたペースノートを読み上げ、ドライバーはその情報を元にして走っているのだ。
さて、PPIHCは156個ものコーナーがドライバーを待ち受けている。奴田原選手はドライバー一人で走行したわけだが、全てのコーナーを僅かな練習走行で覚えきって決勝に臨んだのか……?
「覚えたのかと言われると……、さすがに目を瞑って思い出して、156個全てが出てはこないですね(笑)。
でも、現地に行ってまた走ったとしたら、次はきついコーナーだとか、ここはインについて曲がらなければ、ここではアクセル全開で、というように思い出していくことが出来ます。
私がラリードライバーということで、『コ・ドライバーを乗せて走った方が速いのでは?』と思われる方もいらっしゃるでしょうね。でも、ラリーとヒルクライムは全く異なる競技なのです。ラリーはSS(スペシャルステージ)の全てを覚えきれないから、コ・ドライバーが読み上げるペースノートで次のコーナーを想像しながら走っています。ノートの情報を耳で聞いて、それを頼りに目で見る景色と突き合わせているわけです。
でもヒルクライム、少なくともPPIHCはそうではありません。コーナーの景色を見たときに、自分自身でそこがどういうコーナーなのかを覚えているんです。だから、例えとして『PPIHCはラリーの長いSSを1本走るようなもの』という表現もしましたが、実際の走り方はラリーとは全く異なるものなのです」
2013年もPPIHCのEV部門は盛況を見せている。前年のウィナーとして、この状況をどう見ているのだろうか。
「昨年、事前の下見にガソリンエンジン車で頂上まで行きましたが、山頂付近では半分近いパフォーマンスという程度まで標高があがることによる影響を受けていました。もちろんEVではそんなことはなく、『TMG
002』では電池の容量も問題ないことが解っていましたので、スタートからフィニッシュまで全開で好きなように走らせてもらえました。
PPIHCはEVにとって、そのパフォーマンスを存分に活かせる最高のステージ。盛り上がりを見せているのも納得出来るものです」
同じくEVでPPIHCに参戦した塙選手は、引き続き今年も効率を追求するスタイルでBluEarth-Aとともに出場する。ADVANで優勝を飾った奴田原選手から見た塙選手の戦い方のスタイルとは?
「例えばガソリンエンジン車のモータースポーツにも、スプリントがあれば耐久もあるし、エコチャレンジだってあるわけです。
いまのPPIHCではEVが一括りにされていますが、将来的にはこれが2つのクラスに分かれて、一方はストリートタイヤ限定になったりする可能性もあるでしょう。そうなれば、塙選手は間違いなく優勝候補の筆頭になりますよね。
私が昨年参戦したマシンと、塙選手のマシンでは、そもそもの目的が異なります。私のマシンはツインモーターで速さを追求していた一方、塙選手のマシンはシングルモーターで、一般市販されている低燃費タイヤを装着して、EVならではの効率を追求するという画期的な取り組みです。
毎年、挑戦を重ねる度にタイムアップしているというのは本当にすごいことだと思いますし、とても先進的で世界的にも誇れるスタイルのモータースポーツ活動だと思いますから、今年も好成績を期待しています」
奴田原選手も注目する、2013年の塙選手の戦いぶり。いよいよ注目の決勝スタートまで、カウントダウンが始まっている。