チーム・ヨコハマ EVチャレンジ 2013 [パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム]
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塙郁夫選手が抱く闘志 塙郁夫選手が抱く闘志 塙郁夫選手が抱く闘志 塙郁夫選手が抱く闘志 2013年の"パイクスピーク"
ヨコハマタイヤ・挑戦の歴史
塙郁夫選手が抱く闘志
マシンの特徴とスペック
オリジナルのEV(電気自動車)レーシングで、5年連続のパイクスピーク参戦を目前に控えている塙郁夫選手。日本を代表するオフロード・レーサーとして、「Baja(バハ)1000」をはじめとした多くの世界的な大会に参戦し、好成績を修めてきた華麗な経歴の持ち主だ。
そして、ドライバーの顔と同時に、レーシングマシンを造り上げるクリエイターとしての顔も持つ。自ら設計図を描き、形にしていく“マニュファクチャラー”でもあるのだ。

パイクスピークではEV初代チャンピオンという、輝かしい称号を持つ塙選手。参戦に向けてアメリカに発つ準備も忙しい中、お話しをお聞きした。
2013年は、アップデートされるモーターのポテンシャルに期待
−まずは、昨年(2012年)の戦いを総括するところからお願いします。

塙郁夫選手 :
昨年はモーターを最新の液冷式に変更しました。これは一昨年、限界領域でモーターが発熱することによって、エマージェンシーモードが作動して持てるパフォーマンスのすべてを発揮出来なかったことによるものです。
しかし、この最新のモーターの油温対策に振り回されたのが、昨年のすべてと言えます。

もっとも、あのモーターは世の中にたった1個しかない試作品でした。つまり、僕以外にはモータースポーツというフィールドで鞭を打った人間は誰もいないのです。だからリスクは覚悟の上、それを百も承知で採用して実戦投入したのです。

結果としては11分58秒974と、11分台に入れて自己ベストを更新出来ましたから、あのモーターとしてはギリギリ及第点の結果を出せたと思っています。その上でデータを解析していくと、モーターのオーバーヒートによるタイムロスは40秒くらいあるだろうという感じです。実際にはペースが上がることでモーター以外への負荷も高くなるので、現実的なところでタイムロスは30秒くらいでしょうか。
そう考えると、もしパフォーマンスをフルに出し切れれば、11分30秒前後のタイムは出せたのではないかと思っています。


−モーターについては、昨年と同じものを使うのですか?

塙郁夫選手 :
昨年のレースが終わった直後、それこそ現地で行った打ち上げの席で、モーターのメーカーが「俺たちが悪かった」と謝ってきたんです。その上で、きちんと責任を持ってモーターを改修すると宣言してくれました。

それからは、こちらが持っているデータを先方に提供し、メーカーはそれを解析して改修に取りかかるというやりとりが進みました。スケジュールの関係で改良版のモーターを事前に日本へと送ってもらうことは出来なかったので、アメリカに渡ってからモーターの載せ替えを行ってテストする予定になっています。
豊富な経験値が導き出した"塙流・マシンセットアップ"
−2010年から使い続けているという電池については?

塙郁夫選手 :
電池は今年もそのまま使います。
2010年、今のクルマを造ったときに搭載した電池ですが、電池メーカーは1回の参戦だけに使うという発想で造っていたんですね。でも、僕たちはそれを4年連続で使うんです。去年の戦いが終わったときにすべて点検してもらったのですが、電池の劣化は取るに足らないレベルであるという結果が出ました。それは僕たちとメーカーの共通した見解なので、だったらお金も無いからこのままでいこうということに(笑)。
世間はEVというと電池の劣化もウィークポイントだと捉えている部分もあるようですから、そうなると僕も悪い癖が出て、逆にうちは何年続けて使えるかやってみようという気になっています。


−EVレーシングマシン(HER-02)そのもののアップデートは行っていますか?

塙郁夫選手 :
マシンそのものは4年目になりますが、セットアップを少し変更する程度です。今年は装着するタイヤのサイズがアップする予定なので、前後のサスペンションに手を加えつつ、ダンパーの減衰力をサーキット走行的な方向に持っていきます。これは昨年のパイクスを走ってみて、想像していた以上に路面が良くなっていたことへの対応なのです。

つまり、足回りをちょっと触るくらいで、大きなことは何もしていません。
元々、僕の車の造り方がシビアではないんですよ。ピンポイントでセットアップが決まれば速いけれど、外してしまうと危なくて乗れない、なんていう車ではないんですね。おおむね、八割方のセットアップが出れば、そこそこ走れてしまうようにしています。
これはオフロードにおいては、どこかにピンポイントで合わせたセットアップが出来ないという経験値から来ています。何があっても大きく外すことなく、というスタイルが車のセットアップでも自分自身のドライビングでも身に染みついているんですよ。
低燃費タイヤ「BluEarth-A(ブルーアース・エース)」で戦うということ
−タイヤは昨年に続いて、BluEarth-A(ブルーアース・エース)を装着しますね。

塙郁夫選手 :
昨年に引き続いて、市販のBluEarth-Aを装着して戦います。このタイヤは、みなさんがタイヤショップなどで購入するものと全く同じ、低燃費タイヤとして広く認知されている商品です。
僕のパイクス参戦は、初年度の2009年にGEOLANDARというヨコハマタイヤのオフロードブランドのアメリカ向け市販品を装着して戦うところから始まりました。その次の年も市販タイヤ、2011年こそ市販前のプロトタイプを装着しましたが、昨年からはBluEarth-Aを装着しているので、やはりこれも市販品なのです。

良く聞かれることのひとつに「どうして低燃費タイヤで戦うんですか?」という質問がありますが、あのEVレーシングマシンにADVANを装着すればタイムは簡単にポンと上がるのは分かりきっていることなのです。特に完全な舗装路となった今のパイクスピークでBluEarthとADVANを比べること自体がナンセンス。でも、低燃費タイヤよりスポーツラジアルと考え始めると、最後には究極のレーシングスリックタイヤに行き着いてしまうので、それは僕たちにはやる意味がないな、と。


−つまり、低燃費タイヤであるBluEarthで戦うことにこそ意義がある、ということ?

塙郁夫選手 :
そうですね。もちろん僕の場合、ADVANを履きたいと言えばヨコハマタイヤだって用意してくれるし、BluEarthブランドでもスポーツ性能を高めたスペシャルタイヤを作ってもらうことだって無理ではないんです。
でも、そこをあえて市販品のBluEarthでやっていこうと、僕が腹をくくっているんですよ。

僕たちは最初に自分たちが進むべき道を決めておいて、その“灯台”を目指して戦っているんです。タイヤやマシンをハイスペック化してハイパワー競争に混ざって行っても、豊富な資金を持っているチームにあっと言う間に飲み込まれてしまうのは目に見えていますから。
そうではなくて、僕たちはあくまでも低燃費タイヤでもここまでのタイムを出せるんだよ、ということを実証していきたい。
だって、スペシャルタイヤを履いて勝っても誰に喜んでもらえますか? それよりも、今からユーザーのみなさんに買ってもらおうというタイヤでレースをして好タイムを出せたんだよ、というのが本来あるべき姿だと思っているんです。


−昨年からハイパワーを誇るEVの参戦が増えてきています。

塙郁夫選手 :
これはもう、数年前からの想定通りなんです。むしろ、僕が予想していたよりも、ちょっと遅いくらいで(笑)。
どこかで資本力のあるチームが嵐のようにやってきて、それが去った後は何も残らないんじゃないかという危惧を持っていました。少し自分が思っていたよりも遅かったですが、やっぱり去年になって“嵐”はやってきましたね。もちろん僕たちと方向性の違いはありますが、パイクスピークをEVで戦うことが注目を集めて、日本でも新聞や雑誌などのメディアで採り上げられるのは嬉しいことです。願わくば、長く続けてほしいですよね。
目標は11分台前半、そして10年・15年先を見据えて
−パイクスピークを戦うドライバーの心理を教えてください。

塙郁夫選手 :
これはパイクスピークに限りませんが、どんなレースでも戦いの本番に向けた自分のテンションの持っていき方というのがあります。
パイクスピークにはパイクスピークのリズムというのがあるのですが、コースのリズムと自分のリズムが合わないと危険な場面にも遭遇してしまいます。だから僕の場合は、常に一定のリズムで臨んでいきます。そうすればコースに波長を合わせていけますから。

これはバハ1000などへの参戦も通じて見出したのですが、ある一定のリズムに入ると喜怒哀楽や暑さ・寒さなどを超越してしまえるんです。それはもう修行僧の世界というか、悟りの境地みたいなもので(笑)。一定のリズムになると、マシンの不調やいろいろ事象を客観的にみることが出来るんですよ。走っているときも、もう一人の自分が冷静に観察しているような感じで。
僕は昔から、レーシングカルテというものを作っています。レース本番だけではなく練習走行などでも、走行内容に加えてそのときの自分の精神状態もメモしているんです。「奥さんとケンカした」とか「何かいいことがあった」とかを書いておくと、後で読み直したときに例えばタイムが出なかったのはマシンが要因なのか、それとも自分の体調や精神状態が要因なのかを冷静に分析できますから、そこから理由を探って的確な補正を出来るんです。


−いよいよ5年目の挑戦に向けたカウントダウンが始まりました。

塙郁夫選手 :
パイクスピークでは、おじいちゃんが造ったマシンを息子が受け継いで、さらに今は孫が乗って参戦しているというケースも珍しくありません。パイクスピークの有名ドライバーは、顔写真とマシンがセットになっていて、毎年のように新車を投入なんていうことは無いのです。

僕もEVの初代王者になって、ミュージアムに写真も飾られました。だったらこのまま、今のマシンで10年、15年と参加してみるのも悪くないと思っています。「EV初代王者の塙は、死ぬまで同じクルマでパイクスピークを戦った」と語り継がれるようになるのが格好いいのかな、と(笑)。

オフィシャルや観客からは、「走っている姿が綺麗だ」と言ってもらえました。鳥が舞うように、フィギアスケートの華麗な演技のように、とにかくスマートで綺麗だ、と。これこそが自分の目指している走りであり、みんな目が肥えているなと感心させられます。

僕自身は、まだまだパイクスピークを攻めきれていません。ドライバーとしては毎年参戦して経験を重ねることで、どんどんコースを覚えていけますし、タイムを詰めていける余地はたっぷりあるんです。それこそ10年、15年という長いスパンで。

そういう前提の下、2013年は11分台の前半が目標タイムです。先にお話ししたように、昨年のクルマで11分30秒くらいは出たはずなので、今年はモーターをはじめとしたアップデートや、ドライバー自身のコース慣熟度アップを考えたら、11分台の前半には入れていきたいですね。
【Driver Profile】 塙 郁夫 選手 =Ikuo Hanawa=
1960年・茨城県出身。
高校3年生の夏にフォーミュラバギーを駆って「全日本オフロードレース選手権」にデビュー。翌年には同選手権のB-1クラスでチャンピオンを獲得。
25歳から4輪駆動車のレースにも参戦を開始、初レースで優勝を飾ると抜群の速さでステップアップを続け、日本オフロードレース界ナンバーワンの地域を確立する。1990年代には国内最高峰のオフロードレース「JFWDAチャンピオンシップレースシリーズ」で10年連続チャンピオンを獲得。2001年には公式戦100勝を達成した。
活躍の場は日本に留まらず、1991年にはアメリカン・オフロードレースのビッグイベントである「Baja1000」に初出場。日本人初優勝を飾ると、2002年にはクラス優勝を達成した。
 
"パイクス"を駆けるBluEarth
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