TEAM YOKOHAMA EV Challenge
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塙郁夫選手は、日本を代表するオフロードレーサーの一人。チャンピオンの称号も数多く手中におさめ、その戦いのフィールドも世界をまたにかけたものだ。
例えば「バハ(Baja)1000」は、メキシコを舞台に丸一昼夜休むことなく、荒野を1000マイル(約1600km)一気に駆け抜ける過酷なレースだが、塙選手は20年以上にわたって参戦を続けている。アジアではモンゴルのゴビ砂漠で開催される「モンゴリアンラリー」に出場、こちらも過酷さではバハに引けをとらないことで知られているラリーレイドだ。

そのようなフィールドで挑戦を続けてきた塙選手は、2009年からパイクスピークに自ら作り上げたEV(電気自動車)で参戦している。その参戦の歴史などについては、ヨコハマタイヤのモータースポーツウェブサイトで昨年掲載した記事に詳しいが、4年目の参戦を目前に控えた今、改めてパイクスピークをEVで戦うことの意義などについてお聞きした。

LINK >> YOKOHAMAモータースポーツ|EV×BluEarth 塙郁夫選手の挑戦 (2011.11.18掲載)
塙選手のパイクスピーク参戦については、まず前述のリンク先にある記事をご覧いただきたい。その上で4年目の参戦となる今年は、2010年に投入した「HER-02」という塙選手ご自身が作り上げたマシンでの継続参戦となるが、3回目の出場となるこのマシンの進化について、まずはバッテリーに関するところからお聞きしていこう。

「EVというのは負荷をかけると、ガソリンエンジン以上に発熱の問題が致命的になってきます。もちろん普通の走り方では何の問題もありませんが、モータースポーツという過酷なフィールドでは、バッテリーとモーター、さらにコントロールユニットまでも発熱の問題に悩まされます。

しかし、私たちはバッテリーについては発熱問題は一切ありません。最初にこのマシンを作るとき、バッテリーのタイプとして瞬間的に大きな出力を出せる『出力型』のものをメーカーさんと相談して選びました。対して一般的なEVは航続距離を伸ばすために『容量型』を使っているんです。この『容量型』は航続距離は伸びますが、全開走行をすると発熱しやすいんですよ。だからパイクスピークを戦うために作ったマシンには、最適と思われる『出力型』を搭載したのですが、まずはこうした最初のコンセプトワークやバッテリー選択が正しかったんですね。

だから、バッテリーは車体の側面に収納していますが、冷却のための走行風は一切あてていません。そもそもバッテリーは外気温に影響を受けるまでに8時間や10時間もかかるものなのです。仮に氷点下の北海道や灼熱の砂漠にいきなり持ち込んで放置しても、バッテリーの中身が外気温と同じになるまでには一昼夜かかるんですよ。

我々のマシンは、18650と呼ばれている円筒形のバッテリーを6700本つないで搭載しています。このバッテリーは世の中に広く普及しているもので、それこそ秋葉原などで誰でも買えるものなんですよ。普及しているということはトラブルシューティングも済んでいいて、実績があるということですから選びました。
もう少し具体的に紹介すると、18650はパソコンにも使われています。だからわかりやすいので一般の方には『パソコンと同じバッテリーです』と説明もするのですが、厳密に言えば同じ18650でも容量型と出力型があります。前者はパソコンで使われていますが、我々が使っているのは後者で電動工具用のもの。瞬発的に大きな力を得られ、発熱の問題もないということで、ドリルやインパクトレンチなどと同じ電動工具用のバッテリーを使っているんです」
EVは誰もが知っているように、石油などの化石燃料を使わず、電気で走る。ゆえに電池、そしてモーターが構造の核となるが、一般的な捉え方としては従来のガソリンエンジン車に例えるなら、モーターがエンジンに相当し、電気を蓄えているバッテリーはガソリン、つまり燃料という認識の人も多いのではないだろうか。
しかし、塙選手によると、この捉え方は決して正しくはないというのだ。

「そうですね、実はガソリン車のエンジンに相当するのはバッテリーだと思います。モーターはあくまでもパワーを伝えるために媒体という位置づけでしょうか。だからこそ、バッテリーが最初に設計された通りの使い方を出来るのか、というのが重要なポイントになります。

バッテリーの容量はガソリン車でいうところの燃料タンクの容量ではなく、エンジンの排気量に相当すると思います。そしてバッテリーの設計特性は、エンジンで言えばスポーツ指向のDOHCなのか、それともコンベンショナルなOHVなのか、という感覚ですね」

この塙選手の解説を意外に受け止めたという方も多いのではないだろうか。それだけEVでは重要な存在となるバッテリーだが、塙選手のマシンに搭載されるバッテリー、その秘密をもう少しお聞きしていこう。

「2010年に『HER-02』という現在のマシンを製作し、搭載したバッテリーですが、交換することなくこれまで3回の参戦を果たしてきました。そう、最初に積んだものそのままで。
我々は最初の設計段階で、バッテリーは時間の経過や何度も使うことで劣化するだろうと考えていました。さらに参戦を重ねる内に更に大きな容量が欲しくなるだろうと予測していたので、マシンを作った時点からその当時に必要とされる以上にバッテリーを積んでいたんです。モータースポーツを戦うマシンといえば軽量化が第一とされるのが常ですが、我々はとにかく積めるだけバッテリーを積みました。
その結果、今になってどんどんタイムが速くなり、モーターの発熱が厳しくなって毎年バージョンアップを迫られるのに対して、バッテリーは元々の余裕があるから交換する必要も無いんですよ。

そして今年の参戦も、バッテリーは無交換のままでいきます。もちろんメーカーさんにもマシンをアメリカに送る前にチェックしてもらいましたが、性能劣化は一切見られず。これにはバッテリーを作ったメーカーさん自身もビックリしていましたね」
バッテリーはマシン製作当初のものと変わらないと語った塙選手。その一方でモーターについては、毎年アップデートが施されており、今年は特に大きな変化があるという。

「モーターはアメリカのACプロパルジョンというメーカーのものですが、ここは十数年前に今の形を完成させたベンチャー企業で、世界的なEVの雄といえる存在です。

2010年から使っているのですが、発熱との戦いでもありました。2010年はゴール直前に発熱からリミッターが効いてしまったので、昨年はモーターの外側と内側の両方から冷やす二重空冷システムにしました。これで2〜3割の冷却効果向上が図られ、リミッターが効く前にゴールしてタイムも一気に縮められたわけです。

しかし今年のパイクスピークは路面が全面舗装になるということで、モーターの発熱にはより厳しくなると予想されます。そこで我々は昨年のレース終了直後にACプロパルジョンと打ち合わせをした結果、最先端の液冷モーターを使えることになりました。この液冷システム最近になって公式に発表された最新テクノロジーの結晶で、これからのEVにとってスタンダードとなる技術です。

実際にマシンに組み込んでのテストもしましたが、実は出力のスペック値は前のものより小さい、つまりパワーダウンしているんです。しかし乗ってみると、サーキットを周回しても最高速チャレンジをしても、パワー不足を感じるようなことはありません。むしろドライバーとしては五感に伝わってくる洗練度が素晴らしいという印象です。これはタイムは何秒早いとかよりもある意味重要で、タイヤを最初のひと転がしした瞬間に「ニヤリ」と出来るマシンというのは、なかなか無いものなんですよ。

モーターが液冷になったことのメリット、それはトラブルの心配が無いことのほかに、ドライバーとしてはドライビングに集中できる環境が整うというものがあります。
なぜなら、実は昨年までのパイクスピークでは僕は前をほとんど見ないで走っていたんですよ。それよりもメーターパネルのモニターを見て、バッテリーの容量や電流、モーター温度などを常に確認しながら気を配っていた。特にモーター温度を上げないように注意していたので、前を見ていたのは全体の2割くらいで、あとはメーターばかり見ていたかも(笑)。
だから、今年はじっくり前を、コロラドの空を見ながら156個のコーナーを攻めていけますね!」

こうしてモーターを中心に進化を果たした塙選手のマシン。このほかではリアにスタビライザーを新たに装着し、全面舗装となるパイクスピークへの対応を施している。



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