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WTCCの魅力と歴史 WTCCを戦う選手とマシン ヨコハマタイヤとWTCC
WTCC日本ラウンド・プレビュー イベント&ヨコハマタイヤブース 鈴鹿サーキット発・直前情報
F1、WRC(世界ラリー選手権)に次ぐ3つめのFIA世界選手権カテゴリーとして、2005年に産声をあげたWTCC(FIA世界ツーリングカー選手権)。その後、2010年から2012年までの3年間はGT1世界選手権、2012年からはWEC(世界耐久選手権)が開催されており、2013年現在は4つのFIA世界選手権のひとつに数えられている。
市販量産車をベースとしたツーリングカーによって、短めの距離/時間で競うスプリントレースの世界最高峰に位置づけられるWTCC。このエキサイティングなシリーズは、発足翌年の2006年から現在まで8シーズンにわたってヨコハマタイヤがオフィシャルサプライヤーをつとめている。
前述の通り、2013年の時点でモータースポーツの頂点に位置するFIA世界選手権は4つのカテゴリーが存在している。F1、WRC、WEC、そしてWTCC。ヨコハマタイヤは2006年からWTCCのワンメイクタイヤサプライヤーをつとめており、2013年9月の時点でFIA世界選手権にタイヤを供給する唯一の日本のタイヤメーカーである。また、供給は現時点で2015年までの継続が決定している。

ここで時間軸を2005年の7月に巻き戻す。この年に発足したWTCCは他社メーカーのタイヤワンメイクとなっていたが、横浜ゴム・モータースポーツ開発部(当時・現在はヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナル)の渡辺晋(写真)は、翌年からヨコハマタイヤのワンメイクになることが正式決定したと知らされる。

開発当時のストーリーは2008年2月に掲載した特集記事「
世界最高峰のバトルを支えるADVANの“匠”」に詳しいので併せてお読みいただきたいが、今だから明かせる話もひとつあると渡辺が語る。

「実は開発に着手した当時、シリーズの関係者から『WTCCは世界選手権であり、他のタイヤメーカーも強い興味を持っているから、まずは3〜4年くらいやるつもりで取りかかってほしい』と言われたのです。もちろんこれは非公式な発言ですが、現実にモータースポーツの世界というのは内外を問わず“浮き沈み”が激しい世界です。話題を呼んで新たに発足したカテゴリーでさえ、数年でレースそのものが消滅してしまうことだってあるわけです。
そんな厳しい面もある世界においてWTCCは発足から9年も続いており、それこそが魅力的なレースであることの証だと思います。そして、ヨコハマタイヤとしてそのようなレースを長くサポートできていることを嬉しく思っています」
ヨコハマタイヤはWTCCのワンメイク供給が決定する以前から、国内外のさまざまなモータースポーツ活動を通じて高い技術力を誇っていた。しかし、このWTCCはそれまでのレースに無い激しいバトルが演じられ、タイヤに対する負荷も想像を遥かに超えるものだった。

「当初、タイヤの仕様を決めるテストを行ったら、構造が持たないとか摩耗が早いなど、ヨコハマタイヤにとって異次元の厳しさに直面しました。そこで緊急プロジェクトを立ち上げて、根本的に材料や構造、形状はどうあるべきかを見直して、最終テストで合格を得るに至った経緯があります。
ヨコハマタイヤは今年でWTCCに連続8年のタイヤ供給を行っていますが、この時にその場凌ぎの手法に頼ることなく本流を追求したことが、現在でも通用する技術を確立できた最大の要因だと考えています」

実はWTCCのタイヤは、参戦コストの抑制を大きな理由として供給当初から大きな変更を受けていない。正確に言えばウェットタイヤについての改良が施されたことと、環境性能を向上させたことはあるが、基本的な部分は8年間変わっていないのだ。この間に参戦車種の変更があり、エンジンの変更もあり、車は比較的重く、パワーやトルクも増大してタイヤへのシビアリティは高まっている。
なぜ、これだけの変化がチーム側にありながらも、基本的に同じタイヤで戦い続けることが出来ているのだろうか。


「長年にわたって同じ仕様でやってきたことにより、チームがヨコハマタイヤの使い方を熟知してきた面がありますね。その上でタイヤが大丈夫であると確認された時点で、FIA(国際自動車連盟)が『仕様を変えるな』という形で支持してくれたのだと思います」

ワンメイクサプライヤーとして、FIAやWTCCのオーガナイザー、チームやドライバーからの信頼を得てきたヨコハマタイヤ。そんな中で渡辺が印象的なレースとして記憶に残っている一戦として、2012年のオーストリア・ザルツブルグリンクでの第2レースを挙げる。
この大会、元々ザルツブルグリンクはタイヤへのシビアリイティが高いコースであるという認識はチームを含めて共有されていた。しかしそこはWTCC、レースが始まると各選手はひとつでも上の順位を得るべくアグレッシブな走りを披露、その結果として終盤に上位陣でタイヤを壊すケースが続発してしまったのである。


「2012年のオーストリア・ザルツブルグリンク戦はWTCC初開催でしたが、コースの両端についているバンクがタイヤに対して厳しい条件となることが想定され、事前に各チームとキャンバーや空気圧について情報交換をして臨みました。第1レースは無事に終了したのですが、第2レースは路面温度が上がり、セーフティカーも入らなかったのでタイヤの温度が一気に上昇し、終盤にきて一気にタイヤ温度が上がって限界を超えてしまい、トップグループのシボレー5台とセアト3台のタイヤが壊れてしまいました。
こうなると普通はタイヤメーカーが一身に責めを負うところですし、そういう経験も過去にありました。ところがこの時はチームやドライバーの誰一人としてタイヤについての苦情は言わず、逆に『ヨコハマタイヤは良くやってくれた。全車が同じタイミングでタイヤの限界に達したというのは、品質が安定している証拠だ』などと言ってくれて、そこまで信用してくれているのかと涙が出そうになりました」

ヨコハマタイヤに絶大な信頼を寄せているWTCC。長年のタイヤ供給で積み上げられた信頼こそが、WTCCの魅力的なレースを支えている原動力のひとつにもなっているという隠されたエピソードである。
ヨコハマタイヤとWTCCにおける信頼関係。これはポテンシャルの優れたタイヤを生み出したことはもちろんであるが、そのタイヤについて8年間にわたって高い品質を維持し、さらに世界中の開催地に確実に届けてきたことも背景にあることを忘れてはならない。そして、そこには生産から物流まで実に多くのヨコハマタイヤのスタッフが関わってきているのだ。

「WTCCのタイヤは年間で5千本くらい使われますが、流れとしては日本で生産したものをイタリアに送り、ここから世界中にデリバリーしています。これは日本などのアジア地域で開催される大会も例外ではなく、そのために欧州以外の地域で開催される大会については半年近く前から計画を立てて用意します。
ですが、参加台数には流動的な部分もありますし、雨がどの大会で降るのかなどは予測も出来ません。こうした要因により計画とのずれが生じた場合は、生産部門が全力でタイヤを作り上げ、物流部門が最短かつもっとも効率的な方法で輸送にあたります。
品質の維持も重要なことで、当初はレーシングタイヤの中でも特別な品質管理体制で臨んでいました。しかし今では、それが広く展開されてすべてのレーシングタイヤで当たり前のことになっています。
タイヤが届かないからレースを出来ない、などという事態は絶対に許されません。そのためにバックアップのストックも用意してありますし、以前には物流の最短記録として生産から5日間で欧州に届けたこともありました」

生産工場から物流、そしてサーキットでのタイヤサービスと、多くのスタッフが関わっているモータースポーツの世界。WTCCはそんなタイヤスタッフも“ファミリー”として扱ってくれるといい、渡辺は最近のエピソードをひとつ紹介する。

「先日のアルゼンチン戦で、WTCCの全戦に帯同してサービスをしているスタッフの一人が病欠してしまいました。すると、WTCCの看板を作っている会社が『Get Well Soon(早く元気になれ)』という看板を作ってくれたのです。これを主催者がアレンジしてくれて、看板の前で全ドライバーが集まって写真を撮ってくれ、さらにEurosportが全世界に向けてテレビで放映してくれました。
この模様を見たスタッフは病室から間髪入れずにお礼のメールを送ってくれました。そして病気も回復して、鈴鹿から現場に復帰することが出来るようになりました。
WTCCの関係者は、主催者も選手もチームスタッフも、さらにテレビクルーやタイヤサービスも、みんながともに世界を転戦して家族のような関係になっています。我々ヨコハマタイヤのスタッフも含め、みんながWTCC以外のレースにも関わっていますが、『WTCCファミリーが一番だ』という人が多いですね」
世界中を転戦する“WTCCファミリー”の一員であるヨコハマタイヤ。世界を戦うことはヨコハマタイヤにとっても得るものが多いと、渡辺はWTCCを戦い意義を強く語る。

「WTCCは西欧から始まり、東欧、日本、南北アメリカ、アフリカ、ロシアへと広がりを見せてきています。それはヨコハマタイヤにとって、販売を強化していきたいエリアとも合致しているのです。
これらの地域で世界最高峰のツーリングカー・スプリントレースであるWTCCを戦うことは、高性能なヨコハマタイヤのブランドイメージを多くの方々に持っていただくために、とても良いプロモーションになっています」

今や切っても切れなくなりつつある、WTCCとヨコハマタイヤの強固なパートナーシップ。前述の通り現時点でWTCCへのコントロールタイヤ供給は2015年まで継続されることが決定している。
そしてWTCCは2014年に、新しい扉が開かれる。既に報じられているように車両規定が大幅に変更され、よりハイパワーでハイスピードなものに進化するのだ。これにあわせてタイヤの規定も発足以来初めて変更されることになっており、ヨコハマタイヤは新規定に適合するタイヤの開発を現在進めているところだ。この新規定とタイヤについて、渡辺が解説する。


「現在は240/610R17というサイズのタイヤで戦われているWTCCですが、2014年からの新規定で250/660R18と1インチサイズアップします。基本的なコンセプトは17インチからの変わることなく、世界一速く、壊れない、最初から最後まで安定したグリップを発揮する、という内容で開発を進めているところです。
現在は新規定車両が無いので、データ比較などインドアのテストを主体に開発作業が行われています。外径が大きくなるので17インチで苦労した荷重耐久性は楽になるのですが、その反面で仕様による性能変化が敏感になります。基本設計はほぼ完成しましたので、微妙なチューニングを施しているという段階にあります。
新しいタイヤのデータやプロトタイプは各自動車メーカーに供給しましたので、今後は実際の新規定車両が出来上がってきたらオフィシャルテストを実施して、その結果を反映させて最終仕様を造り上げていきます」
日本には2008年に初めて上陸したWTCC。岡山国際サーキットで3年間開催された後、2011年からは鈴鹿サーキット・東コースへと舞台を移して今年で3年目、通算すると6回目の開催となる。
この間に日本でもWTCCの存在は広く知られるようになり、コース上で演じられる接近戦はファンを増やしてきている。しかしSUPER GTなど日本においてメジャーなツーリングカーレースは耐久色が強く、WTCCのようなトップカテゴリーのスプリントレースをあまり観戦したことが無いという人も多いのではないだろうか。スタートから繰り広げられる激しいポジション争い、パッと見てわかりやすい順位、最後まで全周にわたって目を離せないバトルの連続と見どころの多いWTCCだが、さらにタイヤに注目した面白い観戦ポイントを渡辺が紹介する。


「今年も日本ラウンドの開催が近づいていますが、まず知っておいていただきたいのが日本のサーキットが持つ特徴です。WTCCが開催される他のコースと比べて、日本の路面は一様に粗いという特徴があります。そのため、グリップさせるには接触面積を増やすために、タイヤに対してグッと荷重をかけるマシンセッティングが必要とされるのです。
ところが鈴鹿サーキットの東コースは、レイアウト的に1コーナーから2コーナーにかけての区間を除いて、荷重をかけたくてもかけられないコーナーが続きます。ここがひとつのポイントで、どうセッティングして、ドライビングをどうまとめるかが非常に難しいところなのです。
マニアックな視点ですが、各車・各選手がさまざまな方法でその課題に臨みます。ですから車両の動きやラインの取り方には違いも見られるでしょうし、フリープラクティスでは試行錯誤する様子も手に取る様にわかるのではないでしょうか。特にフロント荷重がスッと抜ける最終コーナー、ここで違いがはっきりわかると思います。
もちろんみんなプロフェッショナルなチームとドライバーですが、ヨーロッパの常識が通用しなくて悩むことがあるようです」

渡辺がおすすめする最終コーナー、土曜日のフリープラクティスや予選はここが必須の観戦ポイントとなりそうだ。
そして日本ラウンドで話題を集めているのが、ホンダ・シビックで参戦する伊沢拓也選手。マニュファクチャラータイトルを確定させたホンダにとっては凱旋レースとなる鈴鹿、ここで伊沢選手がシビックを駆ってどのような戦いぶりを見せてくれるのかは注目されるところだが、渡辺も大いに期待していると言う。


「やはり伊沢選手は注目の存在ですよね。どのような走り、そして戦いを演じてくれるのかは楽しみなところです。これまでにも多くの日本人選手がWTCCに出場していますが、日本車を駆る日本人選手は伊沢選手が初めてのケース。WTCCも9年目ですし、今年はホンダがマニュファクチャラータイトルを確定させていますから、鈴鹿では“日本車と日本人、ここにあり”というところを見せてくれるのではないかと期待しています」
[UPDATE : 13.Sep.2013]
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