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WTCCの魅力、それは前述のようにエキサイティングかつアグレッシブな戦いそのものであるといえる。日本では「サーキットの格闘技」などと称されることもあるが、もちろんモータースポーツというスポーツである以上は単なる“ケンカ”とは異なり、過度なラフプレーに対しては厳しくペナルティが科せられるようになっている。その上で世界トップクラスのドライバーたちはギリギリの攻防戦を繰り広げ、結果として時に接触も厭わない超接近戦が演じられているのだ。
その接近戦が演じられる背景には、WTCCならではの規則があり、それらを理解するとWTCC観戦はより面白さを増していく。
■決勝レースは日曜日に2回
WTCCの決勝レースは、全大会を通じて日曜日に2回行われる。それぞれは別個のカウントとなり、今年の日本は第19戦と第20戦を開催。年間では全12大会/24戦のカレンダーとなっており、まさに世界をまたにかけて転戦している。
■予選はQ1とQ2の2段階方式
土曜日に行われる公式予選は、まず全車が出走するQ1が行われる。ここで各選手がマークしたベストタイム順に、上位の12台が続いて行われるQ2への進出権を獲得する。この12台はQ2のベストタイムにより順位が確定し、翌日の第1レース(日本では第19戦)のスターティンググリッドは1位から12位までがQ2の結果、13位以下はQ1の結果に沿って配列される。
■第2レースはリバースグリッド
第2レース(日本では第20戦)のスターティンググリッドも、土曜日の予選結果を基に配される。ただし上位はリバースグリッドとなり、Q2での1位から10位までがリバース配置されるかたちとなる。つまり、第2レースのグリッドはQ2の10位がポールポジションとなるのを筆頭に、10番手にQ2トップタイム、11番手と12番手はQ2の同順位、そして13番手以下はQ1の13位以下、という配置となる。
これにより、常勝の強豪ドライバーに対して、ダークホース的な選手が第2レースのスタートをポールポジションから迎えることも珍しくなく、第2レースは逃げきりを図るこうした選手に対して後方から猛追する強豪勢という図式になることも多い。
■2つのレースで異なるスタート方式
WTCCは第1レースが走りながらスタートするローリング方式、第2レースは停車状態からスタートするスタンディング方式を採用する。これにより車種間格差をイコール化しているのだが、特に注目なのはスタンディング方式の第2レース。この方式はFR(後輪駆動)のBMWが得意としており、数台をごぼう抜きして1コーナーを制するシーンが何度も繰り返されてきている。前述のリバースグリッドとあわせて、第2レースは展開の予想が難しいのだが、まずはBMWがどの位置にいるのかを注目してみよう。
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ツーリングカーの世界選手権史をひもとくと、1987年にWTCがグループA車両で1シーズンだけ開催された経緯がある。この年、富士スピードウェイで開催された「INTER TEC」もWTCタイトルがかけられたことを覚えているファンも多いのではないだろうか。その後、市販車を改造したツーリングカーによる世界選手権は存在しない状態が続いていたのだが、2005年になってそれまでのETCC(ヨーロッパ・ツーリングカー選手権)を発展させるかたちでWTCC(FIA世界ツーリングカー選手権)が発足する。
このシリーズをプロモートしているのは世界的なスポーツ衛星放送で知られる「EUROSPORT」で、テレビ放送を軸にエンターテイメント性が高められている。例えば1レースおよそ30分〜40分という所要時間、随所で起こる接近戦、スプリントレースゆえの順位のわかりやすさ、といった要素だ。
もちろんレースそのものは、ハイレベルな真剣勝負。テレビカメラに笑顔を振りまくトップドライバーたちも、レースがスタートすればチェッカードフラッグまでの間は熱いバトルを演じ、観客や視聴者は手に汗握る展開が続くことになる。
ではここからは、発足した2005年から2012年の昨シーズンまで8シーズンを3つに区切ってWTCCの歩みを振り返っていこう。
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■2005年 : WTCCが発足、初年度チャンピオンはBMWのアンディ・プリオール選手!
2005年4月20日、イタリアのモンツァサーキットで、WTCCは記念すべき第1戦が開催された。同年のカレンダーは全10大会/20戦で、BMW、アルファロメオ、セアト、シボレー、フォードの5メーカーがマニュファクチャラー登録を行って熱戦が繰り広げられた。
そして記念すべきWTCC初代チャンピオンに輝いたのは、BMW・チームUKのアンディ・プリオール選手。最終戦のマカオで決めたタイトルにより、前年のETCCチャンピオンに続いての栄冠獲得となった。
■2006年 : ヨコハマタイヤのワンメイクとなり、BMWのプリオール選手が2連覇!
2006年、この年からWTCCのオフィシャル・サプライヤーにヨコハマタイヤが指名された。オフシーズン中にテストを重ね、注目の開幕戦は前年の覇者・プリオール選手が第1レースを制すると、BMW・チームジャーマニーから参戦する若手のアウグスト・ファルファス選手が第2レースで優勝。
前年に続きBMWがシリーズの主導権を握っていくが、両選手にヨルグ・ミュラー選手を加えた三つ巴の様相となっていく。そしてやはり前年同様にマカオでの最終決戦にタイトル争いは持ち越され、最後は僅か1点差でミュラー選手を下してプリオール選手が二連覇に成功した。
■2007年 : セアトがターボディーゼルを投入するも、BMW帝国の強さは揺るがなかった!
2007年はブラジルで開幕したWTCC。その第2レースでファルファス選手が母国優勝を飾った一方、プリオール選手は開幕戦を未勝利で終えた。しかし次のオランダはシボレーのアラン・メニュ選手とセアトのガブリエレ・タルクィーニ選手が勝利を分けあい、さらにその次のスペインはアルファロメオのジェームス・トンプソン選手が史上2人目の1大会2レース制覇を成し遂げ、BMW、特にプリオール選手は未勝利が続く。
中盤のポルトガルやスウェーデンではシボレーが表彰台を独占するなど、タイトルの行方は混沌としていった。さらにスウェーデンからセアトはディーゼルターボエンジン車を投入、デビュー2大会目となるドイツではイヴァン・ミューラー選手が早々にディーゼル車の世界選手権初優勝を飾っている。
タイトル争いはシリーズ後半に入って巻き返したプリオール選手と、ディーゼルパワーが炸裂したミューラー選手の最終戦一騎討ちに。しかし、タイトルを賭けたマカオでミューラー選手はマシントラブルに泣き、プリオール選手が3年連続でドライバーズタイトルを獲得すると、BMWも同様に3年連続でマニュファクチャラー部門を制した。
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Series Champion |
タイトル |
2005年 |
2006年 |
2007年
>> Report&Result |
ドライバー部門 |
アンディ・プリオール |
アンディ・プリオール |
アンディ・プリオール |
マニュファクチャラー部門 |
BMW |
BMW |
BMW |
YOKOHAMAトロフィー |
マルク・ハインリッヒ |
トム・コロネル |
ステファノ・ディアステ |
YOKOHAMAチームズ・トロフィー |
Proteam Motorsport |
GR Asia |
Proteam Motorsport |
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■2008年 : ディーゼルパワーが炸裂、セアトのイヴァン・ミューラー選手が初戴冠!
2008年、その開幕戦を制したのはディーゼルエンジンを搭載するセアトを駆るイヴァン・ミューラー選手だった。結果から言えばミューラー選手はディーゼルパワーで初のWTCCチャンピオン獲得に至るのだが、実際のところ年間の勝ち星は全24戦中2勝に過ぎないのである。この年、セアトは全部で5台のマシンを投入、ガブリエレ・タルクィーニ選手やティアゴ・モンテイロ選手といった強豪ドライバーをラインナップした。このセアト勢同士の戦いも熾烈で、結果的に全24戦のうち11勝をディーゼルエンジンのセアトが飾っている。
そして、この年はイタリア・イモラ戦でホンダ・アコードユーロRがジェームス・トンプソン選手の手で初優勝を飾った。さらに続くイタリア・モンツァ戦には織戸学選手ら3人のドライバーが日本人としてWTCCに初参戦を果たす。そして10月24日から26日にかけて、岡山国際サーキットで「WTCC
Race of JAPAN」が初開催。決勝はあいにくの雨模様となってしまったが、サーキットを埋めつくした大観衆は激しい超接近戦に喝采を送っていた。
シリーズは結果、前述の通りドライバーズタイトルをイヴァン・ミューラー選手が獲得。マニュファクチャラータイトルもセアトが獲得し、BMWの連覇は3年でピリオドが打たれた。
■2009年 : 三つ巴の王座争い、最後はガブリエレ・タルクィーニ選手が初の栄冠に輝く!
2009年も、開幕戦からセアトのディーゼルパワーが炸裂。ブラジル、メキシコと4連勝を飾って強さを見せた。しかし第5戦からはシボレー勢が4連勝、開幕戦からラセッティに替えて投入したニューマシン「クルーズ」が戦闘力の高さを見せつける。両者に押され気味だったBMWは第10戦から3連勝、三つ巴の展開が続く。
ドライバーズタイトル争いは、後半戦に入った段階でセアトのイヴァン・ミューラー選手とガブリエレ・タルクィーニ選手、そしてBMWのアウグスト・ファルファス選手の三人が主役となっていく。ターニングポイントとなったのはドイツ戦で、ミューラー選手が第1レースをリタイア、第2レースを7位に留まったためトップから陥落。2回目と成る日本ラウンドはBMW勢が2レースを制して、ファルファス選手もタイトル獲得の可能性を残して最終戦のマカオに臨んだ。
そのマカオ、第1レースでファルファス選手は8位に沈んでタイトル争いから脱落。セアト勢同士の最終決戦は終盤で大クラッシュが発生して赤旗終了、僅差でタルクィーニ選手が初めてのWTCCチャンピオンを獲得、セアトが2年連続でマニュファクチャラータイトルを手中におさめた。
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Series Champion |
タイトル |
2008年
>> Report&Result |
2009年
>> Report&Result |
ドライバー部門 |
イヴァン・ミューラー |
ガブリエレ・タルクィーニ |
マニュファクチャラー部門 |
セアト |
セアト |
YOKOHAMAトロフィー |
セルジオ・ヘルナンデス |
トム・コロネル |
YOKOHAMAチームズ・トロフィー |
Proteam Motorsport |
SUNRED Motorsport Development |
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■2010年 : 移籍した王者が強さを見せたシーズン、谷口行規選手は日本戦で優勝を飾る!
2010年は、セアトがメーカーとしてのマニュファクチャラー登録を見送り、セアト・カスタマーテクノロジーとしての参戦となった。BMWも体制を縮小したが、プリオール選手とファルファス選手のツートップによる少数精鋭でタイトル奪還を目指す。さらに2年目のクルーズで戦闘力をさらに磨いてきたシボレーの躍進にも期待が集まった。
そして、何といっても話題になったのが、ミューラー選手のシボレーへの移籍劇。注目の開幕戦はセアトのタルクィーニ選手とシボレーのミューラー選手、二人のチャンピオン経験者が勝利を分け合う結果となる。この後、第8戦のベルギーまで両者とBMWのプリオール選手の3人が表彰台の真ん中に立つ展開で、タイトル争いもじわじわとこの3人に絞られていく。結果的にこの年もタイトル争いは最終戦のマカオに持ち越され、第2レースで準優勝を獲得したミューラー選手が自身2回目のWTCCチャンピオンに。さらにマニュファクチャラータイトルもシボレーが獲得、参戦6年目にして悲願を達成した。
また、YOKOHAMAインディペンデントトロフィーでは、谷口行規選手が岡山国際での日本戦では雨の中で優勝を飾った。
■2011年 : 新規定エンジンが登場、ミューラー選手が2連覇を達成!
2011年、残念ながらBMWがマニュファクチャラー活動から撤退、カスタマーレーシングチームスとしての登録になる。一方でボルボがシリーズフル参戦を果たし、注目の存在となった。そして、車両規則が改定されて1,600ccターボエンジンが戦いの主役になったのも、この年からである。
各車が搭載する新エンジンの完成度も気になる中、開幕から速さを見せたのはシボレー。ブラジル戦の第1レースで表彰台を独占すると、第2レースも上位5台のうち2位にBMWのトム・コロネル選手が食い込んだ以外はシボレー勢という様相。終わってみれば全24戦中21勝をシボレーが占める強さだった。ドライバーズタイトル争いも必然的にシボレーの三羽がらす、イヴァン・ミューラー選手、ロブ・ハフ、アラン・メニュ選手の三つ巴となる。後半戦に入って猛チャージを見せたミューラー選手がリードして迎えた最終戦のマカオ。ハフ選手が2レースともに制して意地を見せたが、ミューラー選手もしっかり連続表彰台で2連覇を達成した。
また、YOKOHAMAインディペンデントトロフィーには、前年の岡山を制した谷口行規選手が日本人としてフル参戦を果たして注目を集めた。
なお、この年から日本ラウンドは鈴鹿サーキット・東コースへと舞台を移し、第1レースをメニュ選手、第2レースはコロネル選手が制している。
■2012年 : ホンダが新規参戦、シリーズはシボレーの黄金期を象徴する展開に!
2012年シーズンも、やはり戦いの主役はシボレー勢だった。車種的にはボルボが姿を消し、新たにフォード・フォーカスが参戦。さらにスポットながらロシアのラーダが、2009年以来のWTCC復帰を遂げた。そして、何といっても話題を集めたのが、日本ラウンドから出場したホンダ。マニュファクアチャラー体制での本格参戦で、2013年のフル参戦に向けてシビックを投入してきた。
注目の開幕戦で強さを見せたのは、イヴァン・ミューラー選手。2レースともに制してスタートダッシュを飾った。シーズンを折り返して、第12戦を終えた段階のドライバーズランキングは、ミューラー選手が206点でトップ。2番手が198点のロブ・ハフ選手、3番手は175点でアラン・メニュ選手と、前年に続いてシボレー勢同士のタイトル争いという様相が色濃くなっていく。
終盤に入りハフ選手が巻き返し、アメリカ戦を終えてミューラー選手と同点首位に立つ。続く日本戦を終えても互いに一歩も譲らず、ランキング争いは両者が同点首位のままで推移。そして初開催の中国・上海国際は波乱含みの展開となったが、ミューラー選手が第1レースをリタイアした一方でハフ選手は2位でフィニッシュ、第2レースは優勝を飾って単独シリーズリーダーに躍り出る。35点差で迎えたマカオでの最終決戦、ミューラー選手が第1レースを制して食らいつくも、ハフ選手もしっかりポイントを重ねて悲願のWTCC初チャンピオンに輝いた。
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Series Champion |
タイトル |
2010年
>> Report&Result |
2011年
>> Report&Result |
2012年
>> Report&Result |
ドライバー部門 |
イヴァン・ミューラー |
イヴァン・ミューラー |
ロブ・ハフ |
マニュファクチャラー部門 |
シボレー |
シボレー |
シボレー |
YOKOHAMAトロフィー |
セルジオ・ヘルナンデス |
クリスチャン・ポールセン |
ノルベルト・ミケリス |
YOKOHAMAチームズ・トロフィー |
Proteam Motorsport |
Liqui Moly Team Engstler |
Lukoil Racing Team |
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[UPDATE : 30.Aug.2013] |