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[vol.1] 2012 WTCC 基礎知識&シリーズレビュー [vol.2] 2012 WTCC 参戦ドライバーの横顔 [vol.3] HONDAテスト・レポート
[vol.4] WTCC×ヨコハマタイヤ [vol.5] 鈴鹿サーキットから直前情報
世界最高峰のツーリングカーによるスプリントレース。そのレースは2007年に日本初上陸、多少の接触もいとわない超接近戦はモータースポーツファンの度肝を抜き、「サーキットの格闘技」とさえ称されるようになった。

WTCC、FIA世界ツーリングカー選手権。

市販車をベースにしたマシンは、決して最先端のテクノロジーを誇示したり、圧倒的なハイパワー・スペックを有しているわけではない。しかし、そこにあるレース本来が持つ“競い合い”の迫力は、どのカテゴリーにも負けてはいない。F1、WRC(FIA世界ラリー選手権)に続いて3つ目のFIA世界選手権として発足したのが2005年、翌年からはヨコハマタイヤがワンメイクコントロールタイヤの指定を受けて、今日まで激しいバトルを足元から支えてきている。
10月19日から21日、昨年に続いて鈴鹿サーキット・東コースにやってくるWTCC。今年も見逃せない一戦になることは間違いない。
冒頭に「サーキットの格闘技」とWTCCが呼ばれていることを記したが、振り返ってみるとこの言葉のルーツは衛星放送のGAORAでWTCCの解説をつとめているレーシングドライバー・木下隆之さんに行き着く。2008年、WTCCの日本初上陸を前にしてヨコハマタイヤのモータースポーツウェブサイトで企画された、木下さんと実況のピエール北川さんとの対談において、木下さんがWTCCを「ケンカレース」という一言で表現したのだ。

LINK >> 木下隆之×ピエール北川・WTCCの"熱さ"を語る! (2008年6月27日掲載)


あれから4年の時が過ぎたが、WTCCの魅力のひとつが「格闘技」と称しても違和感の無い接近戦にあることは変わっていない。ただ、スポーツとしての格闘技というからには、いわゆる"乱闘"ではないことを覚えておいてほしい。

接触も珍しくなく、コーナーにスリーワイドや可能であればフォーワイドと、何台もが横並びで入っていくWTCCならではの接近戦は、世界選手権に相応しいハイレベルなテクニックの持ち主たちがギリギリの攻防戦を繰り広げているからこそ行われるものであり、ラフプレーに対しては厳しいペナルティが科される事も珍しくないのだ。
例えば前戦のアメリカ・ソノマでは、第2レース(第18戦)のトップ争いでフランツ・エングストラー選手と接触したイヴァン・ミューラー選手にドライビングスルーペナルティが科された。ミューラー選手にしてみればごく軽微な接触というとらえ方だったようだが、大会審査委員会は公正な視点から厳しいペナルティを科すという判断を下している。

これはあくまでも一例だが、きちんとしたルール運用の下で選手たちはマシンの個性も活かしながら、とにかくトップでチェッカーを受ける事を使命としてサーキットコースを所狭しと駆け抜けていく。
スタートからフィニッシュまではおよそ30分。この間、息つく暇もないほどに随所で激しいバトルが演じられていく、それがWTCCというレースなのだ。
2012年のWTCCについては、当サイト内のカテゴリー解説ページに詳しく掲載している。

LINK >> 2012 WTCC(FIA世界ツーリングカー選手権) カテゴリー解説

まずはこちらのリンク先を一読の上でWTCCの基本をおさらいしていただきたいが、その上で改めてWTCCの特徴的な規則やシステムによる見どころを、3つピックアップしてみよう。
WTCCにはFIA世界選手権としてドライバー部門と、登録自動車メーカーを対象としたマニュファクチャラー部門があり、さらにいわゆるプライベーター勢を対象としたYOKOHAMAトロフィーがドライバーとチームに賭けられている。

総合トップ争いの主役となるのは、いわゆる"ワークス"に該当するマニュファクチャラーのドライバーたち。しかしYOKOHAMAトロフィー勢も侮りがたい実力の持ち主が揃っており、今シーズンで言えばハンガリーでの第10戦でノルベルト・ミケリス選手、オーストリアでの第12戦ではステファノ・ディアステ選手と、ともにYOKOHAMAトロフィー勢の選手がマニュファクチャラー勢を抑えて総合優勝を飾っている。

ランキング争いの熾烈さではマニュファクチャラー勢に引けをとらないYOKOHAMAトロフィー争い、若手からベテランまで幅広い選手層がしのぎを削り会うこちらの部門も要注目だ。
土曜日に行われる公式予選は、まず全車が出走する「Qualify 1」が20分間コースオープンする。ここでのベストラップ順に上位12台は、続けて行われる「Qualify 2」に進出、今度は15分間のコースオープン中にタイムアタックを敢行する。
こうしてQ2まで進出した選手は、Q2の結果が最終的に日曜日に行われる決勝第1レース(日本ではシリーズ第19戦)のスターティンググリッドに反映される。13番グリッド以下はQ1の結果による。

そして同時に、第2レース(日本ではシリーズ第20戦)のスターティンググリッドも決するのだ。こちらはQ2のトップ10をリバース配置することとなり、Q2の10番手タイムを出した選手がポールポジションを獲得することとなる。以下Q2のトップタイム、つまり第1レースのポールシッターが第2レースの10番手グリッドに配され、11番手と12番手はQ2の、13番手以下はQ1の結果によるものされる。
決勝レースは日曜日に2回行われる。これはそれぞれがシリーズの1戦としてカウントされ、今年の日本ラウンドは第19戦&第20戦となる。レースは2,243mの鈴鹿サーキット・東コースでは25周で競われる。実は今シーズンのWTCCにおいて鈴鹿・東は最も距離が短いサーキットコース。ゆえに今年の規定によって50km以上60km以下とされている決勝は、シリーズ最多の周回数で競われることになる。

その決勝は第1レースと第2レースで異なるスタート方式が採用されている。
第1レースはオフィシャルカーの先導でフォーメーションを行った後、そのままスタートを切るローリング方式。ただし、日本のレースとは異なり、レッドシグナルが消灯するとコントロールラインを通過する前でも先行車を抜いて良いとされている。

一方、第2レースはフォーメーションラップから全車がグリッドにつき、停車状態からシグナルの合図でスタートするスタンディング方式となる。こちらはよりスタートの際に駆動をかけやすいFR(後輪駆動)車、WTCCでは唯一BMWのみとなるが、得意としていることで知られている。実際にこれまで多くの第2レースでBMWがロケットスタートを決めるシーンが見られており、先のリバースグリッドとあわせて第2レースはよりスタートに注目したい一戦になる。
2012年シリーズの第19戦&第20戦として開催される、「FIA WTCC Race of JAPAN」。鈴鹿サーキット・東コースを舞台とする2レースは、今季これまでのシーズンを振り返ると、タイトル争いでとても重要な戦いになることが見えてくる。
前戦のアメリカ・ソノマレースウェイを終えて、なんとドライバーの選手権争いは、シボレーのイヴァン・ミューラー選手とロブ・ハフ選手が同点で首位に並ぶこととなった。

残るカレンダーは、日本の鈴鹿サーキット、初開催となる中国の上海国際サーキット、そしてストリートレースとなる最終戦のマカオグランプリ。こうしてみると、初開催コースやストリートレースは何が起きてもおかしくない波乱含みの要素が強い。

対して昨年の開催により、データも持ち合わせているであろう鈴鹿は、是が非でもしっかり勝っておきたい一戦として位置づけられるはずだ。
同点首位で日本戦を迎える二人。シーズンを振り返ってみると、2012年は開幕からイヴァン・ミューラー選手が3連勝を飾って好調なスタートダッシュを切った。第4戦と第5戦こそチームメイトのアラン・メニュ選手に勝利されたものの、第6戦で4勝目を挙げるとスロバキア戦以外の全てで確実に1レースは優勝を獲得してきた。

対するロブ・ハフ選手は第8戦のスロバキアまで優勝に恵まれなかった。しかし、コンスタントに上位を獲得して中盤戦を戦い抜き、ブラジルでの第16戦、そしてアメリカでの第18戦を制して勢いに乗ってきた。

勝ち星だけを比べると、ミューラー選手の9勝に対してハフ選手は3勝と少ない。しかし2位獲得数はミューラー選手が僅か1回なのに対してハフ選手は7回、3位の数もミューラー選手の1回に対してハフ選手が3回となる。そして注目すべきは、ミューラー選手は第4戦と第12戦で8位、第7戦と第10戦で10位、第18戦で14位と、大きくポジションを下げてフィニッシュしたレースが少なくないことだ。

この差が終盤の同点劇に結びついた要因なのだが、果たして鈴鹿の表彰台の中央にはどちらの選手が立つのか、それとも“第三の男”が現れることになるのか、注目のポイントだ。
YOKOHAMAトロフィー争いのキーワードと言えるのが、「世代を超えた争い」である。

開幕のモンツァを終えてステファノ・ディアステ選手、ペペ・オリオラ選手、アレックス・マクドワル選手が14点を獲得してトップで並ぶと、2点差でフランツ・エングストラー選手、さらに1点差でノルベルト・ミケリス選手が追うという接戦がスタートした。
その後、この5選手を軸としたランキング争いが白熱していく。第13&14戦が行われたポルトガルまで首位を守ったのは、現在18歳のオリオラ選手。しかし、第10戦のハンガリーで総合優勝を飾ったミケリス選手、さらに第12戦のオーストリアで総合優勝したディアステ選手が勢いを増したのに対して、オリオラ選手はブラジル戦とアメリカ戦で失速してしまい、トップの座を譲ってしまっている。

前戦・アメリカを終えてのランキングは、トップがミケリス選手で134ポイントを獲得。2番手のオリオラ選手は109点で、その差は25点となっている。3番手は85点のディアステ選手、4番手が79点のマクドワル選手、5番手が68点のエングストラー選手というオーダーだ。

この5選手を世代別に見ていくと、最も若い'90年代生まれのオリオラ選手が18歳、同世代のマクドワル選手は21歳。'80年代生まれは28歳のミケリス選手で目下のランキングリーダー。'70年代生まれのディアステ選手は38歳。そして大ベテランのジェントルマンドライバー、エングストラー選手は'70年代生まれで御年51歳。

各世代を代表するドライバーたちがしのぎを削り会うYOKOHAMAトロフィー、若さを源としたアグレッシブな走りと、ベテランならではの巧みなドライビングがぶつかりあう戦いは、WTCCならではの技の応酬を楽しむことができるだろう。
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