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横浜ゴムの中でも、もっとも長くWTCCに携わってきている一人が、モータースポーツグループの渡辺晋。渡辺は2006年のワンメイクタイヤ供給に先立ち、WTCC用タイヤの開発についてのまとめ役として活躍、現在に至っている。
渡辺は2012年のWTCCを全体的に振り返って、次のように語る。
「やはり今年は、シボレーが圧倒的に強さを見せていますね。レースの興奮というのは、個々のレースやシーズンを通じてのバトルにありますから、シボレーが抜きんでている状況に対して『つまらない』という思いを抱いているファンの方も実際にはいらっしゃることでしょう。
しかし、シボレーの強さは単に潤沢な予算にものをいわせているとかではなく、地道な努力の賜物であることは間違いありません。例えばWTCCのタイヤというのは、主催者側の意向もあってワンメイク供給を開始してから7年間、大きな変化をタイヤは受けていませんが、それでも我々にタイヤについて相談に来るのがもっとも多いのはシボレーなんですよ」
これまでのWTCC史を振り返ると、BMWやセアトが強さを見せてきたこともあり、その時代によって主役的な位置づけに立つチームやドライバーというものが存在してきた。
「そうですね、WTCCは世界中のコースが舞台となるので、その時々でキラリと光るチームやドライバーが出てきて、今年の場合は絶対的なセンターポジションにいるシボレーに挑みます。では、鈴鹿では誰が出てくるのかということを予想しながら、プラクティスから決勝までを注目して見ると面白いでしょう。アイドルの総選挙みたいな感じでしょうか(笑)。
そんな中で今年は若手の台頭に注目です。ハンガリーの第2レース、地元のノルベルト・ミケリス選手が優勝して、大袈裟ではなくサーキット全体が地鳴りのような歓声に包まれたのは、現地にいて感動ものでした」
若手からベテランまで、鈴鹿のコースでキラリと光る走りを見せるのは誰なのか?
もちろんその点は見どころのひとつになるが、一方でシボレー勢の強さも変わらないところだろう。では、シボレーを駆るマニュファクチャラー登録の3選手、それぞれ個性とはどのようなものなのか。渡辺は次のように分析する。
「3人の戦い方は、それぞれに個性的で面白いですね。クレバーに勝負を仕掛けてくるイヴァン・ミューラー選手、成長過程にあって色々な攻め方をしてくるロブ・ハフ選手、そして経験豊富で初コースや市街地コースではノウハウを活かしながらガンガン攻めてくるアラン・メニュ選手。彼ら三人が今何を考えて走っているのかを想像しながら観戦すると、単に『青いクルマ3台が独走』というだけではないレース展開が見えてくると思います」 |
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WTCCのタイヤは2006年から一貫してヨコハマタイヤがワンメイクサプライヤーとして供給を続けている。ただ、WTCCは合理的な考え方が根付いたカテゴリーでもあり、無用な参戦コストの負担を避けるためにタイヤのスペックは、ドライ用スリックについては2010年に環境性能を向上させた以外に基本的な内容は不変のままである。
しかし、この間にマシンは新型に代替わりしたものもあり、エンジンについては自然給気の排気量2,000ccにはじまり、ディーゼルターボの登場や、現在の1,600ccターボ化へと、大きく変化してきた。
このような変遷について、渡辺が解説する。
「一般車でも大きなクルマほど大きいタイヤを装着しているように、タイヤはサイズが大きいほど支えられる荷重も大きくなります。概してツーリングカーレースは、車両重量の割りにタイヤが小さく、フォーミュラカーやGTなどと比べてタイヤへの負荷が最も厳しいのが現実です。その中でもWTCCは、特にエンジンの1,600ccターボ化によってトルクが大きくなっていますから、間違いなくタイヤへの負荷が世界一厳しいレースであると言えるでしょう」
そんな世界一タイヤに厳しいレースを、長年に渡って支えているヨコハマタイヤ。この成功の裏には、“基本を大切にする姿勢”があるのだという。
「ヨコハマタイヤはWTCCへの供給を決めた当初、レーシングタイヤのエンジニアはもちろん、材料やシミュレーションのエンジニア、基礎研究部門、生産部門が総出でプロジェクトを結成して、短い時間で集中して研究・開発を行いました。この時に、付け焼刃ではなくて基礎から徹底的に見つめなおしたことが、現在でも通用するタイヤパフォーマンスにつながったのだと思います」
さらに渡辺は、レースの現場も大切だと続ける。
「各大会では、個々のサーキットの特徴をしっかり把握して、チームとの情報交換や適切な空気圧やキャンバーについてのアドバイスをすることで、タイヤのトラブルを無くすように日々活動をしています。
今年のザルツブルグリンクでは想定外のトラブルも発生して猛反省したところもあるのですが、日頃からチームやドライバーと互いの信頼関係が出来上がっていますので、『タイヤが悪い』といった苦情は一切ありませんでした」 |
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さて、今回の日本ラウンドで特に注目の的となる存在が、いよいよデビューを果たすホンダ・シビックWTCCだ。既にそのテスト現場からのレポートはお伝えしたところだが、果たして実戦でどのようなパフォーマンスを見せてくれるのかは、多くのレースファンが楽しみにしているところ。
そして、WTCC向けのタイヤを担当するエンジニア、横浜ゴムの丹羽正和も、シビックが見せる走りを楽しみにしている一人である。
「私自身、まだシビックWTCCの走りを見たことがありませんので、鈴鹿で見られるのを楽しみにしています。国内のスーパー耐久シリーズではFN2型のシビック・ユーロRが走っていますが、元々ポテンシャルのあるクルマに見えますので、新型になってどこまで操縦安定性が進化しているのか楽しみです。
また、新しく作られたグローバル・レーシングエンジンの出力や耐久性も注目が集まるポイントですね」
このシビックWTCCについて、渡辺は以前にWTCCを戦っていたアコードとの比較も交えて期待を寄せる。
「ジェームス・トンプソン選手が優勝を飾ったこともあるアコードと比べれば、シビックは圧倒的にWTCC向きのクルマであると言えるでしょう。ショートホイールベースでハンドリングは俊敏でしょうし、WTCCでは影響は小さいかもしれませんが空力性能もとても良さそうです。ホンダですからエンジンも優れているはずで、これまでの新規参入例とは異なり、最初から相応の実力を持ったかたちでのデビューになると思います。
ただ、タイヤエンジニアとして見ると、タイヤを苛めてしまう可能性は高く、マネージメントには他車以上に気をつける必要があるのではないかとも思っています」
渡辺はさらに、アコードが優勝した2008年のイタリア・イモラ戦の思い出を語った。
「WTCCは今年で発足から8年目ですが、アコードが優勝した2008年のイモラでは表彰式で『君が代』が流れました。これはマニュファクチャラー登録していたホンダの勝利を祝って流されたものですが、やはり日本人としてはオリンピックなどと同様に、ジーンと来るものがありました。
WTCCの表彰式で『君が代』が流されたのは、今のところこの一度だけ。しかし、これからはWTCCでもメジャーな曲になることを期待しています」 |
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接戦が続くチャンピオン争いの行方、幅広い世代の選手がバトルを演じるYOKOHAMAトロフィー、そしてシビックWTCCのデビュー。話題の多い鈴鹿サーキットでのFIA
WTCC Race of JAPANだが、舞台となる鈴鹿サーキット・東コースについて、丹羽が次のように分析する。
「鈴鹿サーキットの東コースは、駆動方式の差が出にくいコースではないかと思います。WTCCではBMWがFR(後輪駆動)、それ以外の車種がFF(前輪駆動)ですが、この点では見応えのあるコースだと言えるでしょう。もう少し具体的に分析すると、2コーナーから先の登りながらのS字区間はFRが有利、ショートカットから下りの1〜2コーナーにかけては駆動方式による差は小さいものの、若干FFに有利という感じでしょうか。
タイヤに注目して見ると、2コーナーから先の登りながらのS字は後輪に荷重が移った状態で舵を切るので、FFでは軽いフロントに駆動をかけながら走る形となるので、タイヤにはやや厳しい場面です。ただ、昨年のレース終了後に確認したところ、摩耗の面ではそれほど厳しくはありませんでした」
同様に渡辺も鈴鹿サーキット・東コースを次のように解説する。
「右コーナーが中心で、日本のサーキットに共通する特徴としてヨーロッパよりも路面が粗いという点があります。こうした条件で速く走るためには、左前のタイヤを押しつけるようなセッティングになるのですが、そうするとタイヤ1本だけに仕事をさせる結果になってしまいます。このままではレースではタレや摩耗が大きくなって後半でタイムダウンしてしまいますから、チームは金曜日のテスト走行から、この課題に取り組まなければなりません」
いよいよ決勝スタートまでカウントダウンが始まった、2012年のWTCC・日本ラウンド。
この一戦に寄せる期待を、まずは丹羽が次のように語る。
「やはり展開としてはシボレーがレースを引っ張っていくと思います。そこにセアトが軽さを活かしてどこまで食らいついていくか。特に登りは速いので注目ですね。そして、第2レースではスタンディングスタートを得意とするBMWが、どこまで前に出られるか、こういったポイントが見ものだと思います」
渡辺も、2回目となる鈴鹿サーキットでの戦いを、次のように予想する。
「昨年同様に、予選でシボレーが速さを見せて第1レースの主導権を握っていくというのが順当な展開になるでしょうか。そこに、鈴鹿を得意とするティアゴ・モンテイロ選手が、シビックを駆ってどう食らいついていくのかが興味深いですね。
また、昨年のボルボのように、伸び盛りのフォードがダークホース的な存在として好走を見せてくることも期待できます。
第2レースは、パッシングが難しい鈴鹿・東コースですから、リバースグリッドの位置次第で誰にしても優勝のチャンスがあるでしょう。ということは、土曜日の予選からも目を離せないということですね」
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