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HOME / MOTORSPORTS / ADVAN FAN / Vol.103 News Index
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日本人として初めて、オーストラリアの“V8-Ute Racing Series”に参戦を果たした折目遼選手。乗用車をベースにリアセクションを荷台としたUteと呼ばれる、オーストラリアで人気の高いピックアップをベースに仕立てられたレーシングマシンで競うユニークなレースシリーズであり、タイヤはADVAN A048のワンメイクで行われている。

オーストラリア入りした折目選手は、クローズドコースでのテスト走行を経て、いよいよレース本番を迎えた。
シドニーの市街地で開催されるストリートレースだが、折目選手にとってストリートレースはこれが初めての経験。さらに初めてドライブするUTEのレーシングマシン、これらについて折目選手は次のように語る。

「マシンは前回でもお話ししたようにSUPER GTなどと比べるとノーマル然としていますし、バランスも全然違う。特徴としてはブレーキがとても良く効きました。
コースは一般道路なので雨が路面に溜まらないように路肩に向けて傾斜がついていたりします。つまり、サーキットコースのようにフラットではないので、この辺でブレーキをかけたいという場所でブレーキをかけにくかったりしました。ただ、幸いに今回のコースは覚えやすいレイアウトだったので、克服するのにさほど時間はかかりませんでしたね。
あと、サーキットコースと決定的に違う点は、『少しコースからはみ出ちゃいました』というのが即クラッシュにつながってしまう点。リスクは高いですが、でも攻めていかないとタイムは出ないし。それでいてマシンの特性は独特だし。いろいろなことの狭間で戦うのが、逆にドライバーとしては楽しかったですね」

レーシングドライバーが本来持つ“闘争本能”に火がついたということになるだろうか。では、そんなストリートコースでの戦い方について、もう少し詳しく聞いてみよう。

「事前にはインターネットの動画サイトで車載映像を見たりして情報を集めていました。
V8-Uteというレースそのものがかなりガンガン当てあう戦いだ、というイメージでしたね。決して故意にぶつけあう訳ではないですが、当てられても飛ばないようにして走り続けていくという感じで。
角度をきちんと計算して、当てられてもある程度は仕方ないなっていうのを覚悟して走ったので、変なストレスにはなりませんでした。かえって『当てないように、当てないように・・・』って走る方が、僕たちにとっては逆にストレスになる部分もあります。やっぱり前の車を抜きに行くときは『一か八か』で行く部分もありますし、行ける時には攻めていくものですし」
 
 
フリー走行では30台余りの出走台数中、真ん中くらいのポジションとなるタイムを出した折目選手。次は公式予選となるが、予選スタートはフリー走行のタイム順にスターティンググリッドに整列して迎えるという演出がV8-Uteではされていた。

「フリー走行のタイムは自分としてはベストでは無かった。だから予選では混雑を避けるために、あえてピットインして隊列から離れる作戦を執りました。予選が始まってトップがちょうどコースの半分くらいに達したところで、僕もコースインしたんです。
この作戦が良い感じに的中して、ベスト、ベストとタイムを伸ばせました。ただ誤算だったのがコースコンディション。ハーフウェットだったので、時間とともにどんどんコースが乾いていったんです。当然みんな、最終ラップでベストタイムを出してきたんですが、僕は1周少なかったので結果的には8番手というポジションで予選を終えました」

折目選手自身はこのポジションに対して、まだまだ上に行けたのに残念という思いだったという。しかし、ピットに戻るとそこでは予想していなかった盛り上がりを見せていた。

「チェッカーを受けたとき、サインガードのところでチームスタッフが物凄く盛り上がっているのが見えました。ピットに戻ってみたらお祭り騒ぎになっていて、もう自分のチームだけじゃなくてV8-Uteに出場している他のチームのオーナーや監督もやってきて、『折目、良くやったな。素晴らしい走りだ!』って。
良く聞いてみたら、シリーズの最終戦ということもあって主力勢はエンジンやシャシーをフレッシュにしていたり戦闘力をかなり高めていたらしいんです。僕が乗せてもらったマシンはそこまでのタイムが出ると思われていなかったようで、その点では僕自身が速さを見せられたと思います」
 
 
いよいよ迎えた決勝レース。スタートにあたって、まずはどんな作戦を立てていたのだろうか。

「スタートはですね、とにかく1台でも2台でも前に行きたいな、っていうのはありましたね。走っていて抜きにくいコースだし、当てられやすいレースでもあるし、やっぱりスタートで抜いていくのがまずは一番だと思ったんですが、まぁこれが難しくて。
なにしろマシンの車重があるし、独特の挙動もあって、さほど良いスタートは切れませんでした。そこは1コーナーまでに気持ちを切り替えて。
ただ不運が続くことになってしまったのですが、まずレースウィークを通じて無線が使えなかったことが痛かった。それにサインボードも無いんですよ、なぜかは解りませんが。うちのチームだけだったのかもしれませんけれど」

無線が使えなかったことは、折目選手の戦いに大きな影響を与える結果になった。実は併催されていた他のカテゴリーのレースでトラブル車両があり、コース上にはオイルが出てしまっていたのだ。しかもコンディションはレインからドライへと転じていく難しい状況であった。

「スタートする時に、スタッフは何か凄く大げさにジェスチャーしているんですよ。僕は意味が良く解らなくて『頑張れよ』って応援してくれているのかな、なんて思っていたんです(笑)。スタッフは『コース上にオイルが出ているから気をつけろ』って必死に伝えようとしてくれていたんですけれどね。
それで1コーナーをクリアしてどんどん進んで、問題の7コーナーから8コーナーにやってきた。ここの路面にオイルが出ていたのですが、オイルフラッグも出されていなかったんです。ここまでに他車との接触もあって、こっちは負けれいられないっていう感じでそのコーナーに入ろうとしたら、コーナーの進入でちょっとプッシュされたんです。
『あっ!』って思って姿勢をキープしながらコーナーに入って行ったら、いきなりノーグリップになってタイヤバリアに激突して終わり、という感じでした。何か特にミスをしたとか、突っ込みすぎたとか、足をすくわれたとかではなく、たまたま後ろからプッシュされて、そこの路面にオイルが載っていて、しかも若干のウェット状態で。
そういう不運が重なって、タイヤバリアにボーンっていう感じでレースを終えることになってしまいました」

折目選手自身、レース歴の中でも最大級のクラッシュという残念な結果で終わったV8-Ute初挑戦。心配された身体のほうは、どうだったのだろうか。

「ストリートコースは、クラッシュしたときに痛いですよね。走るにはとても面白いんだけど、当たるとめっちゃ痛い。ハンス(※)はもちろん使っていましたが、それでもヘルメットに傷が入ったくらいですから。自分がぶつかった時の衝撃も凄かったんですが、さらにその後ろからの他の車が続いて突っ込んできたんです。
ただ、当たった瞬間に凄い歓声も耳に届いたんですよ。僕がクラッシュしたコーナーはいくつかの仮設スタンドが近くにあったんですが、1つのスタンドに千人くらいの観客がいる。
レスキューに助けられて車から出たら、大きな拍手で迎えられました。それで僕も、ちょっと何かしてやろうって思って、普通に手を挙げて『大丈夫だよ!』ってアピールしたら、またお客さんから大歓声と拍手が起こりました」


※ハンス : レース中、ドライバーの首を守る装具。首を囲むように装着してクラッシュ時などに首を保護する。頭を守るヘルメットと同様、ドライバーを守る大切な装備のひとつ。
 
 
結果はとても残念なものになってしまった、日本人初となる折目選手のV8-Ute参戦。折目選手はチームから嬉しい言葉をかけられたという。

「メディカルセンターでの処置を受けてピットに戻ったら、『ようこそホームブッシュへ』って言われました。チームからは予選8番手を出したということで、ドライバーとして認めてもらえました。
『レースはこんなものだし、クラッシュだってすることもある。トップでフィニッシュするに越したことはないけれど、速さを充分に持っているんだから経験を積めば成績もついてくる』と言われて、信用してもらえたことを実感しました。
それに、『来年もまた戻ってこい。でも、その時はもっと上のクラスで戻ってこい』ってチームが言ってくれたんですよ。これは僕のチームだけじゃなくて、他のUteのチーム監督なんかからも言われたんですが、みんな『何が出来るかは解らないけれど、俺たちも応援するから上のクラスで戻ってこい』って。
なんていうか、V8シリーズ全体が、大きなファミリーのような感じがしました。クラスが違ってもお互いに認め合っているし、だから僕が『あっちのクラスに乗りたい』っていっても妬むような雰囲気もない。この環境には驚きましたね」

日本とはまた雰囲気が異なるオーストラリアのモータースポーツ事情。それはもちろんチーム側のことばかりではなく、観客の側についても感じる部分があったと折目選手は語る。

「僕が出場したシドニーのレース、観客は16万人だったと聞きました。F1のオーストラリアGPよりも多い数字なんですよ。
実際に走っていても、予選からお客さんがびっちりと入っている。市街地だからコンクリートウォールの上に人の壁みたいのがあったり、柵によじ登って見ている人がいたり。
僕なんか初出場なのに、予選終了後などはファンがどんどん声をかけに来てくれました。V8-Uteはホールデンとフォードの戦いですが、これが日本のプロ野球でいう“阪神 vs 巨人”みたいな感じで。僕はSUPER GTのチームウェアを着ていたので、どっちのマシンに乗っているか判らないファンから『お前はどっちに乗っているんだ?』って聞かれて。『ホールデンだよ』って答えたら、その人はフォードのファンだったようで、『はぁ?ホールデン?ダメだなお前は』って言われてみたり(笑)」
 
 
V8-Uteではファンとの距離の近さを感じたという折目選手。その他にも、いろいろな発見のある貴重な経験になったと続ける。

「今回は市街地レースでしたが、あちこちに大型のモニターが用意されていて、どこにいてもお客さんはレースの状況が分かるようになっていました。お客さんのファン投票があって、その結果はホールデンとフォードが“つな引き”をしている様子でモニターを通じて伝えられているんです。お客さんの中には、原っぱで寝ころんで音だけ楽しんでいるような人もいたり、みんなが本当にレースを楽しめるようになっているんですよね。
あと日本と大きく違うのは、オーストラリアはレース全体をフューチャーしている。
中継にしても最上位のカテゴリーだけということはなくで、例えば今回はミニクーパーのレースも併催されていましたが、テレビ中継のカメラワークとかインタビューの仕方など、採り上げ方は全く同じ。日本ではなかなかサポートレースまでしっかりフューチャーされる機会は無いので、大きな違いを感じましたね」

日本人として初めてのオーストラリア参戦を通じて、折目選手はひとつの提案をしてくれた。

「今回、1レースだけ出場して僕が『凄い、凄い』って思っているのは、良いところだけを見ていた部分があるのかもしれません。でも、それだけ良いところがたくさんあるということですよね。
だから、日本のメディアやレース関係者の人たちにも、ぜひオーストラリアに行ってみてほしいですね。日本との違いを見て、感じてもらって、どんどんオーストラリアの良いところを日本でも採り入れていってもらえればと思います。
あと、個人的には日本のレースは車だけではなくて、ドライバーにももうちょっとフューチャーリングしてほしいですよね」


【>> 第3回につづく】
[UPDATE : 18.Mar.2011]
             
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