いよいよ迎えた決勝レース。スタートにあたって、まずはどんな作戦を立てていたのだろうか。
「スタートはですね、とにかく1台でも2台でも前に行きたいな、っていうのはありましたね。走っていて抜きにくいコースだし、当てられやすいレースでもあるし、やっぱりスタートで抜いていくのがまずは一番だと思ったんですが、まぁこれが難しくて。
なにしろマシンの車重があるし、独特の挙動もあって、さほど良いスタートは切れませんでした。そこは1コーナーまでに気持ちを切り替えて。
ただ不運が続くことになってしまったのですが、まずレースウィークを通じて無線が使えなかったことが痛かった。それにサインボードも無いんですよ、なぜかは解りませんが。うちのチームだけだったのかもしれませんけれど」
無線が使えなかったことは、折目選手の戦いに大きな影響を与える結果になった。実は併催されていた他のカテゴリーのレースでトラブル車両があり、コース上にはオイルが出てしまっていたのだ。しかもコンディションはレインからドライへと転じていく難しい状況であった。
「スタートする時に、スタッフは何か凄く大げさにジェスチャーしているんですよ。僕は意味が良く解らなくて『頑張れよ』って応援してくれているのかな、なんて思っていたんです(笑)。スタッフは『コース上にオイルが出ているから気をつけろ』って必死に伝えようとしてくれていたんですけれどね。
それで1コーナーをクリアしてどんどん進んで、問題の7コーナーから8コーナーにやってきた。ここの路面にオイルが出ていたのですが、オイルフラッグも出されていなかったんです。ここまでに他車との接触もあって、こっちは負けれいられないっていう感じでそのコーナーに入ろうとしたら、コーナーの進入でちょっとプッシュされたんです。
『あっ!』って思って姿勢をキープしながらコーナーに入って行ったら、いきなりノーグリップになってタイヤバリアに激突して終わり、という感じでした。何か特にミスをしたとか、突っ込みすぎたとか、足をすくわれたとかではなく、たまたま後ろからプッシュされて、そこの路面にオイルが載っていて、しかも若干のウェット状態で。
そういう不運が重なって、タイヤバリアにボーンっていう感じでレースを終えることになってしまいました」
折目選手自身、レース歴の中でも最大級のクラッシュという残念な結果で終わったV8-Ute初挑戦。心配された身体のほうは、どうだったのだろうか。
「ストリートコースは、クラッシュしたときに痛いですよね。走るにはとても面白いんだけど、当たるとめっちゃ痛い。ハンス(※)はもちろん使っていましたが、それでもヘルメットに傷が入ったくらいですから。自分がぶつかった時の衝撃も凄かったんですが、さらにその後ろからの他の車が続いて突っ込んできたんです。
ただ、当たった瞬間に凄い歓声も耳に届いたんですよ。僕がクラッシュしたコーナーはいくつかの仮設スタンドが近くにあったんですが、1つのスタンドに千人くらいの観客がいる。
レスキューに助けられて車から出たら、大きな拍手で迎えられました。それで僕も、ちょっと何かしてやろうって思って、普通に手を挙げて『大丈夫だよ!』ってアピールしたら、またお客さんから大歓声と拍手が起こりました」
※ハンス : レース中、ドライバーの首を守る装具。首を囲むように装着してクラッシュ時などに首を保護する。頭を守るヘルメットと同様、ドライバーを守る大切な装備のひとつ。