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HOME / MOTORSPORTS / ADVAN FAN / Vol.53 News Index
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静岡県三島市。古くは東海道の宿場町として栄え、現在も発展を続けるこの町に横浜ゴムの三島工場がある。
横浜ゴムは2008年2月現在で日本国内に5箇所のタイヤ生産工場を有しているが、この三島工場では乗用車や小型トラック用のタイヤに加えて、横浜ゴムの全生産拠点で唯一モータースポーツ向けのレーシングタイヤを生産している。
 
もちろん「WTCC(FIA世界ツーリングカー選手権)」に供給されるワンメイクタイヤも、ここ三島工場で産声を上げる。
 
横浜ゴム三島工場でモータースポーツタイヤの生産に携わる技士・三ツ石幸浩はWTCCを初めて知ったときのことを次のように振り返る。
 
「初めてWTCCというレース用のタイヤを作ると聞いた時には、『WTCCってどこでやっているレースなんだ?』というのが最初の正直な思いでした(笑)。
それまで全く知らなかったのですが、渡辺エンジニアからビデオを見せてもらったりして世界最高峰のツーリングカーレースであることや、激しいバトルが繰りひろげられることを知りました。」

 
それまでにもP-WRC(FIAプロダクションカー世界ラリー選手権)やル・マン24時間レースなど世界的なカテゴリーに向けたタイヤ生産を行なった経験はもちろん有しているが、名実ともに世界最高峰に位置するツーリングカーレース「WTCC」のタイヤを生産するにあたって、何か特別に意識していることなどはあるのだろうか。
 
「WTCC用のタイヤだけを特別扱いするということはありませんが、やはり世界トップのレースで戦うタイヤですから工場としても慎重に製造にあたっています。
工場としては高い品質を常に維持することが最大の使命ですから、タイヤについてのクレームが来ないことを祈るのみです。渡辺エンジニアや小林エンジニアがレースの現場から帰ってくる毎に、タイヤの善し悪しを検証する作業を重ねてきました。」

 
 
ところで皆さんはタイヤがどのように作られているのかをご存じだろうか。
タイヤの製造工程などについては横浜ゴムのウェブサイト"チェックでスマイル"内の「タイヤの製造」においてご紹介しているので参照していただきたいのだが、果たしてレーシングタイヤの場合はどうなのだろうか。
 
「レーシングタイヤと一般のタイヤでは、作り方は全く異なると言っても良いでしょう。工程についてはオートメーションに作られるのではなく、手作りに近いという感じです。
レーシングタイヤは普通ならありえないような超高速領域で使われますから、製造する側としてもとても気をつかって生産にあたっています。」

 
三ツ石の説明にもあるように、手作りとも表現出来るような生産工程を経て、一本一本に作り手の情熱を込めて産み出されるADVANのレーシングタイヤ。
もう少し生産現場について具体的に聞いてみよう。
 
「実はWTCC用のタイヤはSUPER GT用のタイヤよりはタイヤサイズも小さいことから作りやすいと言えるかもしれません。もちろんレーシングタイヤですから一般市販タイヤとは比べ物にならない難しさですが、あくまでもレーシングタイヤ同士の比較としての話です。
レーシングタイヤというのは先に話したように手作り的な要素が強く、製造ラインの担当者は"職人"と言っても良いでしょう。いきなり『今日からレーシングタイヤを作れ』と言われて勤まるような仕事ではありません。
レーシングタイヤの生産現場にはベテランが多く、この先輩達が次の世代を担う"職人"を指導して育てています。」

 
世界のモータースポーツを足元で支えているADVANレーシングタイヤ。
そのタイヤを産み出す、決して世の中にその名が大きく出ることはない何人もの"匠"たちが存在しているのだ。
 
こうして"匠"たちが産み出したタイヤを、WTCCにおいてはどのくらいの本数が使用されるのか渡辺が説明する。
 
「WTCCへの供給本数は、少ないときで一戦あたり300本くらいでしょうか。規則によって開幕戦など特定の大会を除いては1台につき一戦で使える新品タイヤ(ドライ用)が12本と決められています。」
 
 
三島工場がADVANレーシングタイヤの生産を一手に担っているのは前述した通り。
つまり、WTCC以外のカテゴリーで使用するタイヤも全て生産している点について三ツ石が語る。
 
「三島ではSUPER GTなど全てのモータースポーツで使用されるレーシングタイヤを生産しています。
ですから、納期を厳守できる生産スケジュールを立てて厳密な管理を行なって供給しています。もっとも時にはスケジュール的に厳しいこともありますが(笑)。」
 
レースにおいてタイヤが無いというのは絶対に許されない。サーキットではパドックの一角にタイヤサービスエリアを望むことが出来るが、何百本というタイヤが当たり前のようにそこにあり、各チームに供給されている光景の影には、開発から生産そして物流まで携わる全ての人々の努力がある。
 
ところで横浜ゴムはWTCCタイヤ開発にあたり、エンジニアの渡辺と小林を生産拠点となる三島工場に駐在させた。これはタイヤ開発としては異例の事なのだが、工場に駐在したことのメリットは何なのだろうか。
 
「やはりコミュニケーションが良くなることが挙げられます。"肌と肌のふれあい"というわけではありませんが(笑)、日常的に触れ合いがあると開発と生産に携わるお互いが話もよりし易くなりますし、互いの立場も理解し合うことが出来ます。
屈託の無い意見交換や提案は高性能・高品質なタイヤを産み出すことに大いに役立ちました。」

 
渡辺がこう語ると、小林も続ける。
 
「万一のトラブルが発生した場合にも、開発者と生産者が一緒になって解決策を見い出していけます。これによって迅速かつ的確な対応が出来るのも大きなメリットですね。」
 
万全の体制で臨んだWTCCタイヤの供給。こうした体制が世界に認められるタイヤを産み、結果としてWTCCのワンメイク指定を引き続きADVANレーシングタイヤが受けることになったのである。
三島で生まれたタイヤが世界で戦いを演じる。レーシングタイヤを製造する立場の本音について、三ツ石は次のように付け加えた。
 
「やはり好成績をおさめたり高い評価を得たと聞くと、改めてこの仕事のやり甲斐を感じますね。WTCCはワンメイクタイヤですが、例えばそうでないコンペティティブなカテゴリーであれば、やはり自分たちが作ったタイヤが勝つというのはとても嬉しいものです。
ですからモータースポーツタイヤ製造ラインの担当者に限らず、工場のスタッフもインターネットや社内で流れる情報には敏感になっていて、レースの結果などはまめに見ていますね。
でも、私としては例えばマカオで初めてレースを見たときもそうだったのですが、『タイヤのトラブルが出ないように』という思いの方が強くて、『とにかく早く、無事にレースが終わってほしい』という心境でした。バトルを楽しむ、という余裕はありませんでしたね(笑)。」

 
三ツ石の口から思わず最後に漏れた本音。
高い技術力を誇りながらも、それに奢ることなく真摯に生産に取り組んでいる"匠"の姿がそこにある。


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