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HOME / MOTORSPORTS / ADVAN FAN / Vol.53 News Index
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世界最高峰のツーリングカーレース「WTCC(FIA世界ツーリングカー選手権)」。
2006年4月2日にイタリアのモンツァで開催された同年開幕戦で、コントロールタイヤとして指定を受けたADVANのレーシングタイヤがデビューを飾った。 
WTCC向けのタイヤ開発を担当する、横浜ゴム・モータースポーツ部の渡辺晋は世界選手権としてのWTCCが如何にハイレベルかを、こう語る。

「2005年まで使われていた他メーカーのタイヤからADVANに変わったことで、それまでのマシンセッティングが合わなくなります。
これは当然のことですが、そこからADVANタイヤの性能や特徴にセッティングを合わせるまでが物凄く速かったですね。
また、ヨーロッパにおけるモータースポーツ文化の"懐の深さ"のようなものも感じました。最初は『日本から来た訳の分からないタイヤか』などという受け止め方をされるのかと戦々恐々としてたのですが、それは全くの杞憂でした(笑)。」

 
ドライバーやチームはもちろんだが、タイヤもモータースポーツでは戦いを重ねることで進化を遂げていく。
モータースポーツタイヤを開発するエンジニアは、世界各地で開催される全てのレースに赴き、チーム/ドライバーとのコミュニケーションなどを通じて、次なるタイヤ開発に向けたデータの収集を行なっている。

「日本とWTCCのドライバーさんを比べると、WTCCドライバーさんの方がコメントが分かりやすいですね。
要するに『良い』か『悪い』しか言わないのですよ(笑)。
例えば日本ですと『1コーナーのあそこの出口で、こうするとこうなっちゃって・・・』という感じのコメントを良く聞くのですが、WTCCのドライバーさんからはそのような表現をされることはありません。
日本のドライバーが100の項目を指摘するとしたら、WTCCのドライバーさんは10項目くらいという感じでしょうか。しかし、逆に言うと短い表現で的確にタイヤの特性を突いてきます。テストの段階で私たちが思っていたことをズバリと言い当てられることが何回もありました。
また、日本と違ってWTCCではエンジニアさんが主にコメントされます。エンジニアさんはドライバーさんのコメントを聞いた上で、マシンに対して自分が持つ経験や情報を交えて、チームの意見として私たちに伝えてきます。
良いエンジニアがいるかどうかは、チームの強さにもつながっているように感じますね。」


それまでにも海外でのモータースポーツに携わってきた渡辺であるが、少なからずカルチャーショックを受けたWTCC。
世界最高峰の舞台で戦うドライバーとチームが如何にハイレベルかを改めて実感しつつ、その戦いを支える最高のタイヤを作ることに課せられた大いなる使命感を新たにしてシーズンは進んでいく。
 
 
「2007年から私はWTCCタイヤ開発に加わっていますが、現場に行って自動車レースというものが本来持っている面白さを感じましたね。」
 
こう語るのは横浜ゴム・モータースポーツ部の小林勇一。'07年からWTCCタイヤを開発するプロジェクトに加わり、渡辺とともにタイヤの進化に努めてきた。
ところで渡辺、小林ともにモータースポーツタイヤはもちろん、市販用一般タイヤの開発にも携わってきた経験を持つ。
WTCC向けタイヤの開発にあたって、自らの経験でどのようなものが役立っているのだろうか。

「私はSUPER GT、スーパー耐久などに携わってきましたが、その全てが役立っています。もっと言えば、一般市販タイヤを開発した経験の中でも、WTCC向けタイヤの開発に役立っていることは少なくありません。」
 
渡辺がこう語ると、小林も続ける。
 
「私はサーキットレースに加えて、ラリータイヤの開発にも携わった経験がありますが、それも役立っているのは事実です。ラリー用タイヤはレース用タイヤとハードウェア的に異なる部分があるにせよ、ターマック(舗装路面)ラリーもありますから技術的にはWTCCと通じる部分もあるのです。」
 
一見すると何の関連性も無さそうなWTCCとラリー。しかしタイヤ開発としてはラリータイヤに携わった経験もWTCCのタイヤ開発に活かされているという。
 
「以前、タイヤ開発の要素となるものの組み合わせを数えてみたことがあります。材料、パーツの寸法、ゴムの種類など、組み合わせていくと"億"の単位になるんですよ。
その中から最適なものを見つけ出すわけですが、コンピューターが順番に計算して答を出してくれる訳ではありません。また、筋道を立てて徹底的に理詰めでやっていくには膨大な時間がかかってしまいます。
この"億"の中から、まず三つか四つに絞り込んで選ぶことが出来るかどうかがエンジニアリングの鍵と言えるでしょう。
選ぶにあたってはエンジニアが持つ"勘"が必要ですね。」

 
俗に"技術屋"と呼ばれるエンジニアの渡辺が口にした「勘」という言葉。これについて小林が補足する。
 
「"勘"という単語だけでは誤解されそうですが、要するに"経験の積み重ね"が大切だということなのです。」
 
日本の、そして世界のあらゆるモータースポーツシーンで戦いの歴史を積み重ねているADVAN。
先人たちが築き上げてきた伝統と栄光の歴史、そこにはエンジニアリングの面で何物にも代えがたいデータや経験という財産がある。
 
 
脈々と受け継がれるADVANの高いポテンシャル。技術の粋とエンジニアの英知を結集して開発されたWTCC用のレーシングタイヤは、世界最高峰の戦いに挑み続けるチームやドライバーから高い評価を受けている。
ところでWTCCのタイヤはADVANのワンメイク。つまり、タイヤとしてはライバルメーカーとの戦いはないのだが、エンジニアとしてはどのような受け止め方になるのかを小林がこう語る。
 
「確かにいくつものタイヤメーカーが競い合うようなカテゴリーとは違ったものがありますね。レース毎の『勝った、負けた』はありませんから。
しかし、各コースの特性や状況があってのレースですから、タイヤとして色々な条件の下で如何に良い仕事を出来たかを検証していきますので、レース毎に仕事としての区切りもあります。気分的に『勝ててバンザイ、負けてガッカリ』というものではありませんが、ある面ではよりシビアに結果を受け止めているのがワンメイクレースです。」

 
実はWTCC向けのタイヤについてはFIAから思いがけない指示が出されている。
 
「実はドライ用タイヤについてはFIAから仕様を変えないようにいわれています。変えてしまうとテストが必要になったりで参戦コストが増えるなどのデメリットもありますし、なにより開発してきた私たちのタイヤが持つ性能を高く評価していただいたがゆえのリクエストであると思います。
すなわち、全てのチーム/ドライバーに全く同じスペックかつサイズのタイヤを、シーズンを通じて供給しているのが現在の体制です。
正直なところ、エンジニア的には変えたくなる部分もありますけれど(笑)。」

 
小林がこう説明するように、WTCC用タイヤはシーズンを通じて全く同じものが平等に全ての参加者に供給されている。車種、駆動方式、開催コース、開催時期など複雑な要因を全て勘案した上で限りなく全ての参加者にとってイコールコンディションとなるように開発されてきたことは、これまでご紹介した通り。
その結果として、ADVANのレーシングタイヤが世界最高峰の戦いにおいて高い評価を受けたことの現れと言える。
 
「WTCCのようにワンメイクレースであり、かつタイヤの仕様も固定されている今の状況では、私たちタイヤエンジニアは『何もすることが無い』と見られても仕方ないかもしれませんね(笑)。
では私たちは何をしているかと言うと、『タイヤはどうすればもっと良くなるのか』というような事を考えながら、開発に取り組んでいるのです。"技術屋"としては、とても恵まれた環境ですね。」

 
渡辺は笑いながらこう語るが、先に紹介したように"経験の積み重ね"は常にタイヤを進化させていく。そしてそれはレーシングタイヤに限らず、全てのタイヤについてである。
 
「当たり前のことですが、予定通りに決められた数のタイヤを高い品質で生産して、それをレースが開催される世界中に運び、トラブルなくレースを終えることの大切さを、改めてWTCCで思い知りました。
開発にあたっている私たちのみならず、工場、物流といった携わっている全ての人がWTCCを支えているのです。
2006年の開幕戦、初めてワンメイク指定で迎えたWTCCでは、無事にレースが終わったことを受けて泣いてしまいました。
また、最終戦のマカオでは現場にいた関係者全員が握手をして、互いの労をねぎらいました。
2007年は一年間、全世界を小林エンジニアとまわりましたが、やはりシーズンを無事に終えてホッとしましたね。」

 
渡辺は照れながらこのようなエピソードを披露してくれた。
携わる全ての人がタイヤに賭ける情熱と誇り。先進のテクノロジー、その影にあるもう一つのADVANレーシングタイヤが持つ強さの理由である。
 


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