脈々と受け継がれるADVANの高いポテンシャル。技術の粋とエンジニアの英知を結集して開発されたWTCC用のレーシングタイヤは、世界最高峰の戦いに挑み続けるチームやドライバーから高い評価を受けている。
ところでWTCCのタイヤはADVANのワンメイク。つまり、タイヤとしてはライバルメーカーとの戦いはないのだが、エンジニアとしてはどのような受け止め方になるのかを小林がこう語る。
「確かにいくつものタイヤメーカーが競い合うようなカテゴリーとは違ったものがありますね。レース毎の『勝った、負けた』はありませんから。
しかし、各コースの特性や状況があってのレースですから、タイヤとして色々な条件の下で如何に良い仕事を出来たかを検証していきますので、レース毎に仕事としての区切りもあります。気分的に『勝ててバンザイ、負けてガッカリ』というものではありませんが、ある面ではよりシビアに結果を受け止めているのがワンメイクレースです。」
実はWTCC向けのタイヤについてはFIAから思いがけない指示が出されている。
「実はドライ用タイヤについてはFIAから仕様を変えないようにいわれています。変えてしまうとテストが必要になったりで参戦コストが増えるなどのデメリットもありますし、なにより開発してきた私たちのタイヤが持つ性能を高く評価していただいたがゆえのリクエストであると思います。
すなわち、全てのチーム/ドライバーに全く同じスペックかつサイズのタイヤを、シーズンを通じて供給しているのが現在の体制です。
正直なところ、エンジニア的には変えたくなる部分もありますけれど(笑)。」
小林がこう説明するように、WTCC用タイヤはシーズンを通じて全く同じものが平等に全ての参加者に供給されている。車種、駆動方式、開催コース、開催時期など複雑な要因を全て勘案した上で限りなく全ての参加者にとってイコールコンディションとなるように開発されてきたことは、これまでご紹介した通り。
その結果として、ADVANのレーシングタイヤが世界最高峰の戦いにおいて高い評価を受けたことの現れと言える。
「WTCCのようにワンメイクレースであり、かつタイヤの仕様も固定されている今の状況では、私たちタイヤエンジニアは『何もすることが無い』と見られても仕方ないかもしれませんね(笑)。
では私たちは何をしているかと言うと、『タイヤはどうすればもっと良くなるのか』というような事を考えながら、開発に取り組んでいるのです。"技術屋"としては、とても恵まれた環境ですね。」
渡辺は笑いながらこう語るが、先に紹介したように"経験の積み重ね"は常にタイヤを進化させていく。そしてそれはレーシングタイヤに限らず、全てのタイヤについてである。
「当たり前のことですが、予定通りに決められた数のタイヤを高い品質で生産して、それをレースが開催される世界中に運び、トラブルなくレースを終えることの大切さを、改めてWTCCで思い知りました。
開発にあたっている私たちのみならず、工場、物流といった携わっている全ての人がWTCCを支えているのです。
2006年の開幕戦、初めてワンメイク指定で迎えたWTCCでは、無事にレースが終わったことを受けて泣いてしまいました。
また、最終戦のマカオでは現場にいた関係者全員が握手をして、互いの労をねぎらいました。
2007年は一年間、全世界を小林エンジニアとまわりましたが、やはりシーズンを無事に終えてホッとしましたね。」
渡辺は照れながらこのようなエピソードを披露してくれた。
携わる全ての人がタイヤに賭ける情熱と誇り。先進のテクノロジー、その影にあるもう一つのADVANレーシングタイヤが持つ強さの理由である。