「それまで一緒に戦っていたコ・ドライバーが乗れなくなったという事情もあったのですが、2012年はベテランの安東貞敏選手にコ・ドライバーをお願いしました。
2011年は僕とコ・ドライバーがともに全日本の経験値が同じだったので、やはり精神的にも技術的にも若いクルーだったんです。
速い選手の皆さんは、必ずといって良いほどベテランのコ・ドライバーと組んでスキルアップしていますよね。今も若い選手は牟田周平選手にしても大桃大意選手にしても、キャリアのあるコ・ドライバーと組んで経験値を上げています。
だから、自分もそういう環境を作らなければならないと思って、安東さんには一年以上前から連絡を取ったりしていました」
自らが望む体制を固め、2012年は飛躍の年にしたいという思いが言葉の端々から伝わってくる川名選手。しかし、開幕戦の唐津では安東選手から厳しい言葉が飛び続けた。
「初日の段階で、それはもう"けちょんけちょん"で(笑)。たとえば横から『荷重移動しろ!』と言われるんですが、自分としてはやっているつもりなので、『どうしろというんだ!?』という感じだったり。『リアをもっと使え!』って、僕はリアをちゃんと使って走っているつもりだし……。
ペースノートについても、『細かすぎるから大雑把にしろ』と言われて、要するにもっと簡単に要点を絞った解りやすい内容にまとめろということなのですが、最初に言われたときは『そんなノートでは、走れないでしょ!』と言い返してみたり。そうしたら、『それはノートに頼りすぎているんだ!』と言い返されて、もうこれは言われた通りに全部やるしかないな、と(笑)。だって、僕はノート作りにはちょっと自信があったのですが、それを見た安東さんの第一声が『なんだ、この出来の悪いノートは?』ですからね。以前には雑誌の取材でもノート作りには自信があるって言ったのに、それも全否定ですから」
ベテランであるコ・ドライバーの叱咤激励を受け、それを素直に受け入れた川名選手が、そのアドバイスがすべて正しいことに気づくまでには、それほど時間を要さなかった。川名選手曰く、一日に1回か2回は褒めてくれる、それが嬉しくて頑張ったと語ったが、良い意味で安東選手の掌に乗って唐津のステージを果敢に攻略。
その結果は昨年のクラスチャンピオンを下し、堂々のクラス2位フィニッシュという好成績につながった。
「今回の開幕戦では、ライバルの存在は気にならなくなりました。僕はこれまで、ライバルを気にしすぎていたように思ったんです。それが無くなったことで肩の荷が下りたというか、楽な気持ちで走れるようになりました。
これは僕自身が冷静に考えたことですが、僕はあくまでもプライベーターとしての参戦。ヘルプサービスという協力は得ていますが、お金も自分持ちだし、商売としてラリーが位置づけられているわけでもありません。だから、そもそものバックボーンが違うライバルについて、僕はひたすらに運転技術だけを見て比較していたんです。でも、ラリーはドライバーだけが戦っているわけではなくて、やはり参戦体制も大きな要素です。
だから、肩に力を入れて『絶対に勝つんだ、勝てて当たり前だ』と躍起になるのではなくて、『これ、勝てたら凄くない?』という感じで戦ったんですよ。すると、相手のタイムがどうこうはあまり気にならなくて、とにかく自分の求めている理想の走りが出来たら楽しくて、それがタイムにもつながっていたんです。楽しい時間がステージで長ければ長いほど、速いタイムが出たんですね」
ベテランとのコンビ、まだ僅かに一戦であるが川名選手が得たものは大きい。競り合って獲得した2位、これは間違いなく初優勝への大きな一歩になると見て良いだろう。
そんな川名選手に、最後にこれからの目標や夢を聞いてみた。
「夢ですか、それはWRC(FIA世界ラリー選手権)でのワークス入りですね(笑)。
まずは国内でしっかりチャンピオンを獲得Yして頂点に立ち、その後は海外ラリーに参戦したいですね。最終的にはプロフェッショナルのドライバーになること、そして頂点を目指していくことが目標です!」