若いドライバーは往々にして“勢い余った”走りをしてしまうこともある。それが結果的にはコースオフやスピンを招くわけだが、新井選手はこうした結果に対して厳しいアドバイスを口にした。
「やはり本番では、攻めて行ったにしてもリタイアをしてはダメですね。
自分の中で攻めていくのは良いことですが、ラリーというのは絶対に超えてはいけない一線があって、それを超えてしまうのは集中力、もしくは体力が無いかのどちらかなんです。
だから練習の時は102%や105%で走っても良いのですが、本番は99%か100%で走らなければいけません。101%になってはダメなんです」
スポーツである以上は、結果が全ての厳しい世界。しかし、競り合いになった時は、ついついアクセルも多く踏んでしまいがちになるのは致し方ないようにも思える。
「それはね、タイムの出し方が解っていないからなんですよ。速く走る必要がある時に、どこでタイムを詰めなければいけないかを考えないと、闇雲にアクセルを踏んでリタイアにつながるんです。
よほど状況や天候が変われば別ですが、ノートがある中で一線を超えるというのは、ノートが正確ではない可能性が高いですよね。だって、ノートが6と言うのなら6のスピードでコーナーに入れば良いわけで、それより速過ぎるからリタイアしてしまうんですよ。
だから、『全開で攻めてリタイアしたんだから、仕方無いですよね』なんて言っているうちは、まだ甘いのかな、と思います」
世界チャンピオンを獲得した新井選手だからこそ、本気で上を目指す若手へのアドバイスも厳しいものがある。
しかし、現実にモータースポーツは結果が全ての世界。突き詰めれば一人の勝者とその他大勢の敗者が大会毎に生まれているわけで、フィニッシュまで車を運べないというのはそれ以前の問題なのだ。
さて、最後に新井選手に、ご自身がプロフェッショナルとして生きていこうと思ったのはいつの事なのかをお聞きしてみた。
「私は25歳くらいの頃にはギャランティをいただいていて、27歳くらいではラリーでご飯を食べていけるかな、と思っていたんですよ。でも怖い部分もあって、サラリーマンをしながらラリーも続けていけば、ラリーでの分はまるまるプラスの収入になるのだから、その方が良いのかなとも現実的に考えたりしたんです。
しかし、海外の競技に参戦するようになると、時間的にサラリーマンとの両立は難しい。だから必然的にプロのラリードライバーになったという流れなんですね。
まず最初にプロになりたいと思ったのではなくて、WRCに出たいと思ったからプロになったという感じです」
若手のますますの台頭に期待を寄せているからこそ、厳しいアドバイスも語ってくれた新井選手。走りのテクニックはもちろんだが、日頃から欠かさない基礎体力作りのためのトレーニングなど、見習うべきポイントは多そうだ。