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牟田周平選手 川名賢選手 AkiHATANO選手 新井選手&奴田原選手
誰もが認める日本を代表するラリードライバーと言えば、新井敏弘選手と奴田原文雄選手。

過去2回のP-WRC(FIAプロダクションカー世界ラリー選手権)でチャンピオンを獲得した新井選手は、昨年もIRC(インターコンチネンタル・ラリー・チャレンジ)でプロダクションカップを制し、改めてその速さと強さを世界に知らしめた。
一方の奴田原選手も全日本選手権で幾多のチャンピオンを獲得するとともに、2006年には日本人として初めて伝統あるモンテカルロラリーの優勝を飾り、ヨーロッパのラリーファンにも広くその名を知られている。

注目の若手ドライバーをご紹介してきた今回の特集、締めくくりは二人のビッグネームから若き後輩たちに向けてのアドバイスと激励のメッセージをお届けします。
 
「まずはね、走らなければいけないというのは確かですよね」

新井選手に若手が伸びるために必要なことは何か、と問うて、開口一番に返ってきた答えである。

「国内のラリーは私が若いころに参戦していたころよりはSS(スペシャルステージ)の距離も長くなって、環境もよくなっています。でも、IRCやWRC(FIA世界ラリー選手権)よりは1本のSS距離は圧倒的に短いですよね。
そうなると普段から練習をしていないとダメで、走ることで色々なシチュエーションへの対応や、ドライビングテクニックを覚えられるわけです。だから、まずは走ることが一番なんですよ」

モータースポーツ、当たり前だがスポーツである以上は上達への近道は練習に尽きるといえる。しかし、全日本選手権に参戦するレベルになると、ただ漫然と走れば良いというものではない。

「自分の中で車のセッティングが出来るようになることも大切です。
特にラリーの場合は自分でやらなければならないことがレースなどよりも多いですから、車の構造もきちんと覚えていなければなりません。
どこのセットを変えると、車の動きがどう変わるのかといったことなどを、自分の経験値として蓄積していかなければなりません」

もちろんラリーでもレース同様に車のメンテナンスなどはメカニック陣が担う。しかしサーキットのように競技中に何度もピットイン出来るというわけではないので、ドライバーにも車に関する技術的な知識や経験も高いレベルで求められるのだ。
新井選手は、自らの若い頃を振り返りながら、次のように続けた。

「私は大学も工学部出身ですが、車の機構や仕組みに凄く興味があるんですよ。だから、例えば『サスペンションの構造はこうなっていて、こういうセッティングにしたいのならば、ここをこうすれば良い』ということが頭で理解できます。
そして、実際にセッティングしたことによる変化については、乗ってみて体感として理解していくわけです。
このふたつ、机上の理論と運転しての体感が一致しないと気持ち悪いので、とにかく一致するまで走り込みましたね」
若いドライバーは往々にして“勢い余った”走りをしてしまうこともある。それが結果的にはコースオフやスピンを招くわけだが、新井選手はこうした結果に対して厳しいアドバイスを口にした。

「やはり本番では、攻めて行ったにしてもリタイアをしてはダメですね。
自分の中で攻めていくのは良いことですが、ラリーというのは絶対に超えてはいけない一線があって、それを超えてしまうのは集中力、もしくは体力が無いかのどちらかなんです。
だから練習の時は102%や105%で走っても良いのですが、本番は99%か100%で走らなければいけません。101%になってはダメなんです」

スポーツである以上は、結果が全ての厳しい世界。しかし、競り合いになった時は、ついついアクセルも多く踏んでしまいがちになるのは致し方ないようにも思える。

「それはね、タイムの出し方が解っていないからなんですよ。速く走る必要がある時に、どこでタイムを詰めなければいけないかを考えないと、闇雲にアクセルを踏んでリタイアにつながるんです。
よほど状況や天候が変われば別ですが、ノートがある中で一線を超えるというのは、ノートが正確ではない可能性が高いですよね。だって、ノートが6と言うのなら6のスピードでコーナーに入れば良いわけで、それより速過ぎるからリタイアしてしまうんですよ。
だから、『全開で攻めてリタイアしたんだから、仕方無いですよね』なんて言っているうちは、まだ甘いのかな、と思います」

世界チャンピオンを獲得した新井選手だからこそ、本気で上を目指す若手へのアドバイスも厳しいものがある。
しかし、現実にモータースポーツは結果が全ての世界。突き詰めれば一人の勝者とその他大勢の敗者が大会毎に生まれているわけで、フィニッシュまで車を運べないというのはそれ以前の問題なのだ。

さて、最後に新井選手に、ご自身がプロフェッショナルとして生きていこうと思ったのはいつの事なのかをお聞きしてみた。

「私は25歳くらいの頃にはギャランティをいただいていて、27歳くらいではラリーでご飯を食べていけるかな、と思っていたんですよ。でも怖い部分もあって、サラリーマンをしながらラリーも続けていけば、ラリーでの分はまるまるプラスの収入になるのだから、その方が良いのかなとも現実的に考えたりしたんです。
しかし、海外の競技に参戦するようになると、時間的にサラリーマンとの両立は難しい。だから必然的にプロのラリードライバーになったという流れなんですね。
まず最初にプロになりたいと思ったのではなくて、WRCに出たいと思ったからプロになったという感じです」

若手のますますの台頭に期待を寄せているからこそ、厳しいアドバイスも語ってくれた新井選手。走りのテクニックはもちろんだが、日頃から欠かさない基礎体力作りのためのトレーニングなど、見習うべきポイントは多そうだ。
 
プロフェッショナル・ドライバーの定義は難しいものがあるが、あえて狭義の解釈をすれば奴田原文雄選手は日本人で唯一のプロフェッショナル・ラリードライバーであると言えるだろう。自らがショップや企業を経営することもなく、純粋に車を走らせることが職業となっているのだから。
そんな奴田原選手は、「僕なんか何もしていないだけだし(笑)」と謙遜するが、あえてプロになるために必要なものは何かを聞いてみた。

「プロという立場に最も必要とされるもの、私が思っているのは『どれだけラリーが好きか』に尽きるんじゃないかな。私自身もラリーが好きでやっているわけで、今こうしているのも、その思い入れの強さによるものだと思っています」

どれだけラリーが好きか。この言葉は奴田原選手が雑誌の取材などでも、しばしば口にしているものである。

「レースでもラリーでも、モータースポーツというのは結局全部同じで、損得勘定を抜きにして、どれだけその競技が好きで、どこまで集中して取り組んでいけるかだと思います。
だから、とにかく一所懸命にやるしかないんですよ。もし、一所懸命にやっているのに報われない、というような思いを抱いているのならば、それはあくまでも趣味の範囲に止めておいた方が良いでしょう。
逆に、競技をやれていることが楽しくて、もっと上を目指したいとか続けたいという思いがあるのならば、さらに頑張っていくことでおのずと道は拓けていくのではないでしょうか」
好きなラリーをやるのであれば、もっと上手くなりたい。速く走れるようになりたい。そう思うのは至極当たり前のことである。
では、より速くなるためには、競技で勝つためにはどうすれば良いのだろうか。

「それはもう、練習するしかないでしょう。どれだけ経験値を積んでいるか、しか無いんですよね、ラリーという競技は」

期せずして新井選手と全く同じ答えが返ってきた。

「私自身も若いころはずっと走っていました。給料のほとんどを使っていましたが、それは純粋にラリーが好きだったからに尽きますよね。
例えば携帯電話を使うとか、旅行に行くとか、彼女とデートするとか。今の子は恵まれすぎていて可哀相な面もあるのかもしれません。
しかし、限られた予算や時間をどれだけラリーに割けるのかは、やっぱりどれだけラリーが好きなのかによるんですよ。好きなことの上位にラリーがあれば、必然的に練習もするようになるし経験値だって上がっていくわけです。
私は若いころ、幸いに彼女は出来たけれど(笑)、ほかにこれといった趣味もなかったし、とにかくラリーのことばかり考えていましたね」

同じスキルの人が二人いて、一人が100時間、もう一人が150時間の練習をしたならば、後者が上手くなるのは当たり前と語った奴田原選手。自身の輝かしいキャリア、その根底にはラリーが誰よりも好きという純粋な思いがあるという。
では、そんな奴田原選手がプロフェッショナルという立場を意識したのは、いつのことなのだろうか。

「サラリーマンを辞めた時がプロフェッショナルになった時でしょうね。でも、こんな言い方をすると夢も希望も無いように聞こえるからあまり言いたくもないのですが、ラリードライバーでご飯を食べようなんて思わない方がいいでしょう。何故なら、私自身がラリーでご飯を食べようと思って今の立場になったわけではないですからね。
あくまでもラリーが好きだからやっているだけなんです。
ただ、自分が走ったことに対して、プロになった以上はスポンサーさんやチームに貢献出来ていることへの対価をいただければ、それはありがたいな、と。結果的にそれが生活の基盤になっているだけで、決して生活基盤にしたいからラリーを走っているわけではないんです」

語り口はいつものように穏やかだが、言葉の中にはプロフェッショナルとして生きる厳しさが秘められている奴田原選手からのアドバイス。
最後に奴田原選手は、次のように締めくくった。

「プロドライバーにもいろいろなかたちがあって、おのおのが自分のかたちを作りながら道を切り拓いていくしかありません。その道のりは長く険しいかもしれませんが、心の奥底に『ラリーが好き!』という思いが変わらずにあり続ければ、どんな苦労や困難にも打ち勝っていけると思いますよ」
日本を代表するお二人のラリードライバー、そのアドバイスには共通する部分も多く感じられたことでしょう。
そして、お二人の言葉の奥には、「生きの良い若手に育ってほしい」という思いと、「まだまだ若手には負けないよ」という思いも秘められているようです。そして、思いのどこかには「一日も早く、自分たちも『これは、うかうかしていられないぞ』と思わせるような若手と勝負をしたい」という、大きな期待もありそうです。
[UPDATE : 27.Apr.2012]
         
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