ラリーデビューから5年を経て、着々と実力をつけてきている番場彬選手。
前述のようにチームに二人の“兄貴分”と言えるドライバーもいるが、実兄の番場琢選手はSUPER
GTなどで活躍しているレーシングドライバーだ。
「最初の頃は『琢の弟』と言われることにちょっと抵抗があったりもしました。いつかはお兄ちゃんが『彬の兄』と呼ばれるようになってやる、って思っていましたね(笑)。でも、今は兄のことをとても尊敬しています。レースとラリーでフィールドは違いますが、兄弟で話をする機会も多くて、クルマやドライビングについて教えてもらうこともあります」
番場選手について、最後に“もうひとつの顔”をご紹介しておこう。それはバイオリンを作る職人の修行をしている身であるということだ。
お父さんの番場順さんは世界的なバイオリン職人で、テレビ番組などでその活躍が伝えられたこともある。
番場選手は現在、お父さんの下でバイオリン制作の修行中なのである。
「バイオリン作りは、父がやっているのを見ながら色々と教わっています。
作業にはもの凄い集中力が必要。バイオリンは木を削って作りますが、一度削った木は元には戻らないので。無垢の一枚板から形を作っていくのですが、厚みをどのくらいにするかなどは自分で考えながらやるのです。しかし、あまり恐る恐るやっていては時間ばかりかかって商売にならない。スピードと正確さと集中力が高いレベルで求められるものです」
スピードと正確さと集中力。これはまさにラリーにも通じるものではないだろうか。
「そうですね、バイオリン作りもラリーも、自分自身との戦いでもありますし。
バイオリン作りに設計図というものは基本的にありません。最終的には自分の感覚や経験によります。例えば父はストラディバリのような名器のイミテーション製作もやっていますが、昔の楽器の資料があって忠実に寸法を再現することは可能です。でも、同じ寸法にしても同じ音は出せません。使っている木が違いますし、木の締まり具合の差もある。だから、それを見越して厚みを変えたりして同じ音が出せるようにするのです」
自らの技術を経験で高めていき、かたちにしていく。バイオリン作りとラリーには、共通項も多く垣間見ることが出来そうだ。
「集中して仕上げて、最後に形になって音が出る。バイオリン作りは本当にやり甲斐がありますね。
それと同じようにラリーは、僕にとってこれ以上に楽しいって思えるものが無いくらいの存在。自分の中で『もっとこうしたい』というのがあって、頑張ると必ず結果になって返ってくるものなのです。それが自分の自信にもつながっています」
ラリーとバイオリン作り、ともにこれからの一層の飛躍を期待されている番場彬選手。
日本を代表するラリードライバーへの道のりはまだまだ長く険しいものだろうが、一歩一歩確実に前進を続けている番場選手ならばどんな苦難をも克服して、大きく成長してくれるに違いないだろう。