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世界最高峰のツーリングカーによるスプリントレースがWTCC(FIA世界ツーリングカー選手権)。
10月30日から31日にかけて岡山国際サーキットに三回目の日本上陸を果たす「FIA
WTCC Race of JAPAN」は、シリーズ終盤の第19戦・第20戦として開催される。
3月にブラジルで開幕したシリーズは、当初第2大会として予定されていたメキシコ戦が自然災害の影響で開催中止となってしまった。その後、アフリカ大陸のモロッコを経てヨーロッパを転戦、そして終盤のアジアラウンドとして日本と最終戦のマカオを残すのみとなった。
終盤戦ということでタイトル争いの行方が注目を集めるが、このコーナーでは栄冠をかけて挑む主力選手たち、そして注目の日本人ドライバーの横顔をご紹介しよう。
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チャンピオンシップ争いは、ドライバー/マニュファクチャラーともに事実上の三つ巴となっている。
ランキングのトップに立つのは、シボレーのイヴァン・ミューラー選手。2005年のWTCC発足から参戦を続けているシボレーにとって、悲願の初タイトル獲得が期待される存在だ。3台体制のシボレーは参戦6年目の今期、ドライバーラインナップを初めて変更。これまで3勝と優勝回数は思ったほど多くないが、好成績を安定して獲得してきた結果、一昨年セアトに初めてのチャンピオンをもたらしたミューラー選手が、期待に応えるかたちでランキングリーダーに立っている。
2番手につけるのはBMWのアンディ・プリオール選手。WTCC発足から3年連続でドライバーズタイトルを独占してきたプリオール選手、そしてマニュファクチャラーズタイトルを独占してきたBMWにとっては、セアトに奪われた両タイトルを3年ぶりに奪還することが今期の至上命題。
ここまで今期6勝と勝ち星では最多を誇るプリオール選手だが、やや成績の波が大きく目下2番手に甘んじている。しかし、過去にも最終戦での逆転王座獲得などを実現している実力派だけに、岡山そしてマカオと躍進が期待される存在だ。
3番手は昨年の覇者、セアトのガブリエレ・タルクィーニ選手。今期、参戦体制が変わってセアトとしてのマニュファクチャラー登録は見送られたが、ディーゼルターボエンジン車はインディペンデントではなく選手権争いの対象とされた。しかし、その決定を別にしても、マシンの実力はマニュファクチャラー勢に一歩も引けを取っていないのは周知の事実。
勝ち星を見てもプリオール選手に次ぐ5勝を飾っており、“ディーゼルパワー”には衰えを感じさせない。シーズン後半に入ってチェコ、ドイツと足踏みが続いたために3番手に甘んじているが、残り2大会での逆転に向けたシナリオを、元F1ドライバーでもあるベテランは虎視眈々と描いているに違いない。
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イヴァン・ミューラー 選手 =Yvan MULLER= |
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2006年から4シーズン在籍したセアトを離れ、今期からシボレーの一員となったイヴァン・ミューラー選手。開幕当初こそ青いレーシングスーツ姿に違和感も覚えたものだが、今ではすっかりシボレーの牽引役として存在感を見せている。
今期の戦いぶりを見ると、開幕のブラジルで移籍初戦を堂々のポール・トゥ・ウィンで飾って強さを見せたことが、まずは印象的。その後、一度はランキングトップの座をタルクィーニ選手に譲ったが、イタリアでの第6戦を制して返り咲くと、現在までその座を守っている。
今期、勝ち星だけで見ると3勝と決して多くはないが、安定した戦いぶりが光る。チェコでは2戦連続ノーポイントと足踏みもしたが、優勝を含めた表彰台獲得率が61%と高く、着実なポイントの積み重ねが功を奏しているかたちだ。
テクニカル要素の強い岡山では若干苦戦も強いられそうなクルーズだが、そこをカバーする妙技に注目したい。
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生年月日 : 1969年8月16日 |
出身地 : フランス・アルトキルヒ |
趣味 : バイク、ジェットスキー |
チーム : シボレー |
WTCC通算勝利数 : 13勝 (4位) |
WTCC通算P.P.獲得数 : 7回 (3位) |
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アンディ・プリオール 選手 =Andy PRIAULX= |
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WTCCが発足した2005年から3年連続で王座を独占したのがBMWのアンディ・プリオール選手。今期は残念ながらマニュファクチャラーとしての参戦体制を縮小したBMWにおいて、アウグスト・ファルファス選手とともにツートップの一翼を担い、3年ぶりの王座奪還に向けてラストスパートをかけていく。
元々は二輪のモトクロス出身という異色の経歴を持つが、4輪転向後もF3やETCC(ヨーロッパ・ツーリングカー選手権)などを通じて速さとレース運びの巧みさを見せてきた。
まだ年齢的にはベテランと言うのははばかられるが、理論派ドライバーとして駆け引きの巧さは特筆もの。WTCC通算のポール獲得数は4回と意外に少ないが、18勝という最多勝を獲得しているのは、このレース運びの巧さによるものに他ならない。
今期も6勝を挙げて勝ち星は現時点で最多。テクニカルな岡山、そして高度な駆け引きを要するマカオと、その走りに期待が高まる。
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生年月日 : 1974年8月8日 |
出身地 : イギリス・ガーンジー |
チーム : BMW Team RBM |
趣味 : サイクリング、スカッシュ |
WTCC通算勝利数 : 18勝 (1位) |
WTCC通算P.P.獲得数 :4回 (5位) |
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ガブリエレ・タルクィーニ 選手 =Gabriele TARQUINI= |
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昨年、史上最年長のFIA世界チャンピオンに輝いたベテランは、二連覇と自らの最年長王座記録の更新を狙っている。
往年のF1ドライバーとしてその名を知っているファンも多いことだろう。F1を降りてから、1990年代中盤以降はツーリングカーレースに活躍の舞台を移し、2005年の発足と同時にWTCCへの参戦を開始。
初年度のみ当時マニュファクチャラー参戦していたアルファ・ロメオをドライブ、2006年からはセアトのステアリングを握り続けて現在に至っている。
48歳の大ベテランは、イタリア人気質とでも言うのだろうか、熱い走りが身上。若手勢に全く引けをとらないアグレッシブな戦いぶりで、WTCCならではの超接近戦の主役を演じている。
今期はこれまでに5勝を飾っているが、3回のノーポイントを含め、18戦中半分の9戦で表彰台を逃してしまい、ランキング3番手に甘んじている。トップのミューラー選手との29点差をここからどう挽回してくるか、まずは岡山での戦いぶりに注目だ。
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生年月日 : 1962年3月2日 |
出身地 : イタリア・ジュリアノーヴァ |
チーム : SR-Sport |
趣味 : フットボール、釣り、ゴルフ |
WTCC通算勝利数 : 15勝 (2位) |
WTCC通算P.P.獲得数 :13回 (1位) |
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WTCCの白熱したタイトル争いは、世界選手権の称号をかけたものだけに留まらない。もうひとつ、YOKOHAMAインディペンデントトロフィーのランキング争いも、シリーズ終盤に入ってますます白熱してきている。
インディペンデントトロフィーとはマニュファクチャラー登録していないチームを対象としたもの。ただし今期はセアト勢の全チームがマニュファクチャラー登録を見送ったが、FIAがディーゼルターボエンジン車はインディペンデント対象としない旨を決定したため、ディーゼル車はこのトロフィー争いから除かれる。
イメージとしてはマニュファクチャラー争いは俗に言う「ワークス勢」、一方のYOKOHAMAインディペンデントトロフィーは「プライベーター勢」によるタイトル争いと捉えれば分かりやすいのではないだろうか。
歴代の受賞者を見ると、2006年はトム・コロネル選手、2007年がステファノ・ディアステ選手、2008年はセルジオ・ヘルナンデス選手、そして2009年はトム・コロネルが2回目の栄冠を獲得している。
では岡山ラウンドを控えた、現在の状況はどのようになっているのだろうか。
まずランキングのトップに立つのは2008年の覇者であるヘルナンデス選手(BMW
320si)。昨年はマニュファクチャラー登録のBMWで戦ったが、今期再びインディペンデントの舞台に戻り、古巣のスクーデリア・プロチームから二度目のタイトル獲得を目指している。これまでの獲得ポイントは「118」と、トロフィー争いでは一歩先を行く格好だ。
2番手以降は僅差の競り合いとなっており、2位のクリスチャン・ポールセン選手(BMW
320si)は「87」点でヘルナンデス選手とは31点差。3位に続くのはステファノ・ディアステ選手(BMW
320si)で、こちらの得点は「86」。さらにアジア人として初めてWTCCフル参戦を果たしているダリル・オーヤン選手(シボレー・ラセッティ)が4位で、「85」点を獲得して追従している。
まだまだトロフィーの行方を占うのは難しい、混戦模様の色濃いYOKOHAMAインディペンデントトロフィー。
岡山にはトロフィーを争う上位陣がもちろん勢ぞろいするので、こちらのバトルもますますヒートアップすることは間違いないだろう。
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WTCC岡山ラウンドには、4人の日本人“SAMURAIドライバー”が参戦する。
このうち、昨年に続いての参戦となる谷口信輝選手(BMW 320si)と、今年初めてのWTCC参戦を果たす柳田真孝選手(BMW
320si)が、戦いを直前に控えた今の心境を語ってくれた。
まず谷口選手は、昨年の岡山では悔しい思いが募ったという。第1レースは雨の影響で窓が曇って視界を遮られたためにバトルすることもままならず、第2レースでは他車に追突されてリタイアを余儀なくされた。
しかし最終戦のマカオ、その決勝中にWTCCマシンをコントロールするひとつの“技”を見いだしたという。
「説明が難しいのですが、コーナーの進入に肝があるんですね。そのコーナーをとにかく優しく、広く使うんです。いつものレースなら奥まで突っ込んでガツンとブレーキをかけて制動姿勢から旋回姿勢に切り換えるのですが、そのモーションを少し手前から始める感じですね。急ハンドルも厳禁で、フロントとリアのタイヤを両方同時にきちんと路面に接地させる丁寧なドライビングが大切です」
独特のセッティングが、暴れ馬のような挙動を示すというWTCCのマシン。これまでに初めてドライブした日本人選手は、誰もが一様にその動きに驚かされてきた。
今回、初めてWTCCのステアリングを握る柳田選手。レースウィークに初めて実車と対面するという厳しいスケジュールになるが、一刻も早くマシンに乗ってみたいという思いを次のように語る。
「谷口選手はもちろんですが、これまでにWTCCを経験された織戸学選手や荒聖治選手などから、いろいろと参考になる話をお聞きしてきました。ただ、実際にまだ車に乗れていないので、乗ってみないとその大変さを実感出来ないのではないかと思っています。相当クセがある車なんだろうな、という感じですよね」
昨年、マカオでは第2レースでインディペンデント3位の成績を残した谷口選手は、経験を積み重ねたことでマシンとより一体化出来てきたと言う。
「通常、日本のレーシングカーなら数センチ単位で狙ったラインにマシンを運ぶことが出来ます。ところがWTCCのマシンでは、僕の中でイメージと実際のラインとのズレ幅を50センチくらい取らなければならなかった。マカオでズレ幅50センチというのは致命的な遅さにつながります。そんな中で周回を重ねていって、段々とマシンに神経が通いはじめて、クルマと自分がリンクするようになってきました」
経験値を自らのテクニックへと昇華させた谷口選手。本番を控えた今の心境、そして意気込みを次のように語ってくれた。
「今年またWTCC参戦のチャンスを与えてもらえたことに感謝しています。
去年までマニュファクチャラーとして戦っていたドライバーも、今年はインディペンデントに多く参戦してきています。天候や路面状況、マシンのセッティング、予選の順位など、決勝を戦う上での色々な要素がありますが、僕の中でひとつだけ言えることは『去年の悔しさを絶対に晴らす』ということです」
WTCC初参戦となる柳田選手。期待と若干の不安が入り混じっているというのが正直な心境ではないかと思えるが、挑戦者として力強い言葉を聞くことができた。
「以前から出たかったWTCCに出場出来るということで、色々な挑戦があると思っています。
結果を出すことも目標のひとつですが、色々な“壁”を一枚でも多く倒して、自分のものにして今後のレースや戦う上での考え方などに活かしていきたいと思っています。
具体的な目標は・・・、谷口信輝選手に勝つことですね(笑)」
岡山国際サーキットでの「FIA WTCC Race of JAPAN」には、ご紹介した谷口信輝選手と柳田真孝選手に加えて、谷口行規選手(シボレー・ラセッティ)と、伊藤善博選手(BMW
320si)という顔ぶれの“SAMURAIドライバー”が参戦する。
世界のひのき舞台に挑む“SAMURAI”たちの活躍にも大いに期待が集まっている。
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