―「藤井選手は、ホントよくしゃべりますよね。
タイムが遅いとかじゃなくて、無線でしゃべってる時間て藤井選手が一番長いんじゃないかっていう……」
という石黒の藤井選手の印象から、話題は無線の話へ。
石黒禎之 (横浜ゴム・モータースポーツ部 技術開発1グループ)
「渡邊さんの無線のテクニックはすごいですよね。『今の順位はここだけど、トップと同じタイムで走ってますよ』って。分かりやすい。鈴鹿でも、『吉本映ってるよ、かっこいいよ!』とか」
渡邊信太郎さん (Cars Tokai Dream28)
「ノリですよね。吉本と加藤さんと違うのは、その状況が変化した瞬間ですね。
経験からくるものだと思うんですけど、雨が降ってきた瞬間とか、もう大騒ぎになるんですよ、『雨! 雨降ってきちゃったよ!』みたいな。ちょっと冷静になってから、『今の状況だったらまだこのまま走れる』って言うんですけど、加藤さんは違うんですよ。逆に喜ぶっていうか、周りが乱れていく中、『俺は絶対に生き残る』っていう、自信か何かがあるんでしょうね。だから周りのタイムを知りたがります。
あとは、何号車がピットに入ったかっていうのを全部教えるんですが、あの人のすごいなって思うのは、じゃぁたとえば7号車がピットに入ったら、『何秒給油した?』って聞いてくるんですよ。で、『うちは何秒必要なの?』って。
長いレースとかだと、そのあとマップスイッチを切り替えて燃費走行に切り替えるから1秒確保しようとか、そういうことまで考えながら走ってるんですよね」
石黒禎之 (横浜ゴム・モータースポーツ部 技術開発1グループ)
「それは無線のやり取りの中でやってるんですか」
渡邊信太郎さん (Cars Tokai Dream28)
「やりますね。だから、各々のピットタイムと給油時間とトータルタイムとアウトラップ、をひととおり見ています。吉本はどっちかって言うとプッシュするドライバーなので、『思いっきりいけー』っていうような無線になるんですが、加藤さんは、無線でのやり取りをして、ドライバー自身がドライビングをアジャストしていくっていうところがありますね。
加藤さんもかなりしゃべる方だと思いますよ。僕がこれまで経験してきた中では、かなりしゃべります。8割方よけいなことしゃべってるときっていうのもありますよ。レースの実況しながら走ったりとか」
石黒禎之 (横浜ゴム・モータースポーツ部 技術開発1グループ)
「僕が思うに、車に乗って走ってるときにアドレナリンが出すぎちゃってるのは、織戸さんだと思う」
坂東正敬さん (RACING PROJECT BANDOH)
「僕もそう思います(笑)。みんな分かってると思うけど。『織戸』から『激戸』に変わっちゃってるからね」
石黒禎之 (横浜ゴム・モータースポーツ部 技術開発1グループ)
「『○×□※▽〜!!!、でも頑張るよ、うんがんばる』って」
坂東正敬さん (RACING PROJECT BANDOH)
「まだ『頑張るよ』っていい直してくれる時はいいけどね。今年の頭の方に、僕はしゃべってるんですけど、雨が降ったりすると、『聞こえねぇよ!』みたいなことがあったんですよ。そしたら3戦目ぐらいに、片岡のイヤホンを貸してあげたら聞こえるようになったみたいで(笑)。『イヤホンが悪かったんじゃねぇかよ!』って(一同大爆笑)。で、最終戦は特注のイヤホンを作ってもらったみたいです。無線が聞こえるようになったらだいぶ、『激戸学』じゃなくなったみたいで(笑)。
逆に片岡はホント冷静ですよ。もう、普通の会話してるみたいで」
―ですが片岡選手は、開幕戦での激怒無線が話題になりました。
坂東正敬さん (RACING PROJECT BANDOH)
「あれはたまたま。他チームへ僕を(抗議に)行かせたかったのでああいう風に言っただけで。
たぶん一番冷静じゃないかなっていうぐらい。乗ってるときはホントに冷静ですよ。全くもって怒りもしないし。
片岡とも織戸さんとも、こういうときにしゃべってほしいとか、そういう要望を先に聞いてるので、最終戦も、RX-7とダイシンの説明をしたところでしょうがないので、『とりあえずここを守ってもらえれば』って言ってからは何もしゃべってないですね。
でも、最終戦の最終ラップは興奮して『最終ラップ!』って叫んだら、『ちょっとうるさいですね』って(笑)。『行けー!!』みたいに言ったら『うるさいです』って、冷静に返されちゃいました」
―なかなか低くて渋い声をお持ちの片山さんは、チームならではの無線の難しさがあるようです。
石黒禎之 (横浜ゴム・モータースポーツ部 技術開発1グループ)
「僕はこの中で、片山さんの無線だけ聞いたことないんですよ。片山さんてけっこうしゃべる方ですか?」
片山克己さん (Studie GLAD Racing)
「あんまりしゃべらないよ。うちはチームがファンに向けて実況とかやっててさ」
大駅俊臣さん (TEAM NISHIZAWA MOLA)
「リアルライブタイミングとかっていう」
片山克己さん (Studie GLAD Racing)
「そうそう。無線を聞いてて、言ったことが全部出ちゃうの」
石黒禎之 (横浜ゴム・モータースポーツ部 技術開発1グループ)
「無線の内容も出ちゃうんだ! 『片山、こうしゃべる』みたいな」
片山克己さん (Studie GLAD Racing)
「1回、『寒いし、コーヒーくれない?』ってピットに言ったら、『片山エンジニア:コーヒーをください』とかって実況された」
大駅俊臣さん (TEAM NISHIZAWA MOLA)
「それってある意味おもしろいね」
片山克己さん (Studie GLAD Racing)
「勝った負けたってなってれば、もっといろいろ言えるじゃない。その時点では、『このまま走ってて』っていうぐらいなの。ドライバーから『タイヤ、大丈夫そうです』って無線が入っても、タイヤ交換てやっぱり見せ場じゃないですか。(交換しなくても)問題ないんだけど、『タイヤ、4本交換』ってピットに無線で伝えたり、そういうことを言っていました」
―「無線初心者」の福田さんは、田中選手からこんなアドバイスをもらったそうです。
福田洋介さん (JIM GAINER)
「僕は2年目で、無線でどういう情報が欲しいのかまだ分からなくて、哲也さんから、これを言ってくれると嬉しいとか、張りつめすぎてるときに、何か面白いことを言ってくれたらリラックスするから、っていうのを教えてもらいました」
石黒禎之 (横浜ゴム・モータースポーツ部 技術開発1グループ)
「たとえば? それ分かったら、坂東さん使いますよね?」
坂東正敬さん (RACING PROJECT BANDOH)
「でもねぇ、『激戸』さんには何言っても利かないと思うんですけどねぇ……」
片山克己さん (Studie GLAD Racing)
「でもさ、ドライバーが『面白いこと言ってんじゃねぇ!』って言ったら、『あ、これ面白いんだ』って分かるよね」
河野高男さん (RE雨宮レーシング)
「エンジニアより、ドライバーが面白いこと言うよね。GTではなかったけど、昔スーパー耐久とかやってたころに最終ラップで、『あぁーっ! エンジンがぁぁ!……回ってまーす』とか(一同爆笑)。おいおいやめてくれよってね。
谷口はしゃべらない。しゃべらないっていうか、谷口の無線って聞きづらい。たぶん声質だと思うんだけど、折目のは聞き取りやすいのよ。
とくにRX-7は高周波で、すごく聞きづらいんで、運転手には聞こえてても、運転手の声、アクセル全開の時なんかはメカニックには間違いなく聞こえない。
アクセルオフのときにしゃべってくれって言うんだけど、アクセルオフのときって短いじゃない。ブレーキングのときぐらいで。だから逆に言うと、返事もしてこない。聞こえてないってのが分かってるから。
レース中はこっちで状況をずっと伝えてるけど、それに対して返ってくるのは10回に1回ぐらいかな。練習走行中の時はいろいろな情報をもらいながら、ピットインしたらすぐセットアップできるような方向で話をするけど、レース中はあんまり、ガソリンの数字を読むぐらいかな」
レースはチームワークが勝利の鍵。そして監督以下、ドライバーやスタッフ同士の強い信頼関係があってこそ、極限まで"攻めた"ハイレベルな戦いを繰り広げることが出来るのです。
もちろん人同士の信頼関係に加えて、マシンに対してやタイヤへの信頼も重要。ドライバーやチームは勝てるマシン、そして勝てるタイヤがあって、初めて実力を存分に発揮できるのです。