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/ Vol.70
News Index
2008年のSUPER GT最終戦で予選2番手を獲得したニュータイヤ。しかし、決勝レースでの耐久性など改善すべき点も多く、オフシーズンに入って開発陣は"勝てるタイヤ造り"を加速させていきます。
ウェットコンディションを戦うレインタイヤではコンパウンドと並んで重要な要素がトレッドパターン。両者が互いの良いところを引き出し合うことにより、タイヤの戦闘力は大幅に向上するのです。
[Chapter 1]
"屈辱"を"闘志"に変えるタイヤ開発の第一歩
[Chapter 2]
強固な信頼関係から生まれる"強いタイヤ"
[Chapter 3]
留まることなく、今日も進化を続けるADVAN
−2008年の最終戦がターニングポイントになりました
2008年最終戦の富士、予選で2番手を獲得してパフォーマンスを見せた新作のコンパウンド。この結果を受けて、SUPER GTのタイヤ開発を指揮する横浜ゴム・モータースポーツ部 技術開発1グループ・リーダーの島田淳は、ひとつの号令をかけた。
「このコンパウンドを持たせるパターンを作ろう、という号令をかけました。
コンパウンドとパターンは開発を並行してやっていきますが、もしコンパウンドで不都合が出たとしたら、そこはパターンでカバーしようということです。
そこで遠藤さんの登場となるわけです。」
これまでにもADVAN A050開発ストーリーなどで登場した、横浜ゴム第1製品企画部 デザイングループのデザイナー・遠藤謙一郎。トップカテゴリーであるSUPER GTのウェットタイヤパターンデザインについて、その難しさをこう語る。
「横浜ゴムのウェットタイヤは、比較的小さなブロックを使って走るというのが伝統です。SUPER GTはもちろん、WTCCでもそうですね。当時は横浜ゴムのパターンデザインの傾向から言うと間違って無かったと思っています。
しかしSUPER GTはマシンの進化も年々著しく、ダウンフォースが大きくなってタイヤにかかる力というのが半端なものではありません。
そのためパターンがムービングするとか、ブロックが逃げてしまってブレーキングで止まりきれないとか、トラクションを受け止めきれないといったことが問題視されるようになり、ブロックがどんどん巨大化していったという経緯があります。
ところが、巨大化したブロックに対して、組み合わせるコンパウンドとのマッチンクが悪くなってしまいました。それまでは小さなブロックでタイヤとしてのまとまりが良かったものが崩れてしまったんですね。そのことを2007年の鈴鹿1000kmで実感しました。」
遠藤は横浜ゴムのトレッドパターンデザインの傾向と歴史をこのようにまとめた上で、開発の方針を固めていった。
「ブロックを大きくするのは剛性を高めるために仕方のないことですが、そのノウハウが横浜ゴムにはあまり無かったのです。元々が大きなブロックを使うという思想ではなかったものですから。
この点、パターンに合うコンパウンドを見つけていくのは、コンパウンダーは大変だったのではないでしょうか。
それが2008年の富士までに見つかって、ひとつのターニングポイントになりました。大きなブロックでもマッチングがとれて、発熱性も良いコンパウンドです。
そこで、さらに排水性を良くしようとか、剛性を高めていこうということになって開発を進めた結果が現在のパターンです。」
旧パターンで2008年最終戦では予選2番手を獲得、コンパウンダーが成果を挙げた。この成果を受けてデザイナーがコンパウンドの性能を更に引き出せるトレッドパターンを開発、それが形となって2009年開幕戦に新作ウェットタイヤとしてデビューして優勝を飾った。
タイヤ開発はチームワーク、勝利という唯一無二の目標に向かって、一人一人の成果が相乗効果を生んだ結果なのである。
−荒選手は、まるでタイヤ開発者のようでした。
このように開発者の情熱がひとつの形となった新作のウェットタイヤ。
そしてこの開発にあたって大きな存在となっているのが、「H.I.S. ADVAN KONDO GT-R」を駆り、結果的に2009年開幕戦で新作ウェットタイヤのデビューウィンを飾り、KONDO RACINGとして国内戦初優勝を挙げた荒聖治選手である。
荒選手のタイヤ開発における"活躍"について、島田が語る。
「荒選手には開発段階でもテストなどで何度か走ってもらっていますが、最終的な詰めの段階における荒選手の感想というのは、まるでタイヤ開発者のようでした。
『このパターンが良いと思う。だからこのパターンに違うコンパウンドを載せてほしい。そうすれば、乗ってみればこれで行けるかどうかが分かる。』というコメントでしたね。」
荒選手のコメントは開発陣にとって重要なものだった。
単に乗ってみてのフィーリング語るだけではない。具体的にどこがどうなのか、より良くするにはどうすれば良いのか、開発陣にとって現状分析に重要な情報や、今後の方向性を決めるヒントになる内容が多く含まれていたからである。
島田が印象に残っているというコメントについても、荒選手は当たり前のように語る。
「あの時は確信がありました。
接地の仕方やグリップの仕方を確認した時点で、凄く手応えがあったのです。
水たまりの深いところを通過したときの制動とか、あらゆるものを全てチェックした上で、『これは前のパターンを完全に上回っている』というのは感じていました。
しかし、次に『もっとこうしたら、より良くなるのでは?』ということを、こだわって考え続けていたのです。
そうやって細かいところまで妥協することなく全員でこだわり抜いてきたおかげで、開幕戦でしっかりと結果を出せましたね。」
−深溝で最後まで持たせられたことが自信になりました
レーシングドライバー・荒聖治。
SUPER GTでは2006年の鈴鹿1000kmからKONDO RACINGに加わり、マレーシア・セパンでは二年連続で優勝を飾っている。
もちろん過去のキャリアを振り返ってもル・マン24時間レースの総合優勝など、日本を代表するレーシングドライバーの一人である。
新作ウェットタイヤのデビュー戦となった2009年のSUPER GT開幕戦、KONDO RACINGとしては国内での初優勝を厳しいウェットレースの中で圧勝を飾って獲得。
難しい雨のレースを、荒選手はこう振り返る。
「雨の勢いが変化してコンディションがレース中に変わる場面もありましたが、ドライバーとしては、そのタイヤの性能を一番引き出せるコンディションで走っていれば最後まで持たせられるということは分かっていました。
ちょっとでもマッチングしていないところを走り続けるとダメなのは、どんなタイヤでも同じです。
逆に言えば良い環境で走っていれば絶対に長い周回を走りきれるだろう、と。ここはドライバーにしか分からない部分でもあるでしょうね。
結果的には最後まで走りきって優勝を勝ち取りましたが、タイヤは昨年乗っていたものよりも信頼性が大幅に向上しています。
深溝のウェットタイヤで最後まで持たせられたということは、自分にとっても物凄い自信になりました。」
岡山国際サーキットで表彰台の真ん中に立った荒選手。
荒選手は、この勝利についてさらに分析する。
「開発テストをした場所でもあることから、"岡山スペシャルタイヤ"という声も出ているようですが、それは違うと思います。
なぜならこのコンパウンドは昨年の富士でも抜群にグリップした実績があるからです。
昨年はパターンが旧いものでしたから、富士で今のパターンで走ったらもっと良くなっているであろうことは容易に想像出来ます。それはタイヤそのものの性能が良いことの証ですよ。」
大きく進化し、そして優勝という飛躍を遂げたADVANレーシングタイヤ。
ここまでウェット性能の向上に焦点をあててきたが、それ以外に荒選手からのリクエストはあったのだろうか。
「ドライバーとしては2009年の規則改定を視野に入れたリクエストも出しました。
ダウンフォースが少なくなる規則改定が行われるので、そうするとタイヤとして何が必要になるかを提案して、それに全部応えてもらいました。
具体的にはダウンフォースが減ると接地面が少なくなるので、ウェットコンディションは特に難しくなってくるのです。
その辺を視野に入れて開発してもらいました。
パターンにしてもいくつかの候補を作ってもらって、その中からベストなものを見つけていくとかしましたね。」
レーシングドライバーとしてはもちろん、"開発ドライバー"としても才能を発揮する荒選手。
今回の開幕戦優勝を支えたウェットタイヤ開発についても、荒選手の存在を抜きには語れないことが、ここまででもお分かりいただけたのではないだろうか。