2005年のDクラス初制覇から二年連続チャンピオンを獲得、三連覇へ向けての期待を集めての2007年シーズンインを迎えた小林キュウテン選手。しかし、開幕戦は仕事の都合で欠席せざるを得ないというところから一年が始まることになった。
「第1戦が開催された3日後、同じ名阪スポーツランドで大学の貸切り練習会に混ぜてもらって走り、"一人だけの全日本戦"をやりました。
こんなことをやったのは、気持ちの面で自分だけが出遅れてはいけないと思ったから。全日本開幕戦のタイムを破る!と意気込んでいましたが思うように行かなくて、闘志に火がつきましたね。
僕は序盤戦は車がしっかり出来ていないこともありますが、それよりも自分自身の気持ちが出来ていないことが嫌なんです。」
ジムカーナはご存じのように、1日に2回のタイムアタックを行なってコンマ1秒を競い合う。サーキットレースのようにコース上での直接的なバトルを繰りひろげる訳ではなく、どのドライバーも「自分との戦い」であると語るジムカーナ競技。走行ヒートに向けて集中力を如何に高められるかが重要になるが、小林選手の場合は一年間のシーズンを見通しての"人間づくり"から始めているのだ。
「二年連続でチャンピオンを獲得して"追われる立場になった"と言われますが、自分では"まだまだお前たち(Dクラスのライバル勢)には追われないぞ"という気持ちも持っています。
それは自分の精神面でもあり、メカニックについてでもあり、マシンの完成度でもそうです。自分の中ではこれだけ揃っているのだから"勝って当然だろう"という意識すらありました。
さらに言えばそれぞれの大会においては"自分の中で100点の走りが出来たかどうか"を大切にしています。たとえ勝てたとしても、自分として98点の走りだったとしたら、つまらないですからね。」
小林選手を知る人は、そのストイックに速さを追求する姿勢を見て驚くことがある。パドックでは笑顔を絶やさずムードメーカー的な存在でもあるが、出走の前になるとメカニックですら話しかけられないほどの雰囲気に包まれていることがある。
競技ドライバーとして当たり前のことではあるが、なぜそこまでに"速さ"にこだわるのだろうか。
「速さを追う理由ですか?それは"気持ちがいいから!"
例えは下世話ですが綺麗な女性に出会っても、もっと綺麗な女性がいるはずだ、と追い求めるみたいな感じというか(笑)。
速さに快感を覚えることは、ドライバーとしての一番の素質たるものではないかと思っています。」
小林選手らしい例え話も飛び出たが、この姿勢が数々の栄冠獲得に結びついていることは戦績を見ても明らか。
しかし、勝ち続けることを周囲から当然のことと思われるようになると、相当のプレッシャーも肩に重くのしかかってくるはず。
果たして小林選手、ジムカーナを辞めたいと思ったことは無いのだろうか。
「辞めようと思ったことはありません。これだけ気持ちよくて楽しいものがあるのなら、他のものはいらないと思えます。
僕はあくまでもアマチュア。アマチュアの特権というのは、自分の置かれている状況に応じて楽しみ方を変えられることだと思います。たまたま、僕の場合は良い条件が揃って今こうして大会に出場出来ているだけで、同じクルマ好きという人と比べても上手くなれる機会に恵まれていたのだと思います。
もし奥さんや子供が病気になって看病しなければならなくなったら、それはその時の状況に合わせて、出来る限りはジムカーナを楽しんでいたいな、と思っています。
ある意味、アマチュアでいる限りは引退は無いと言えるんです。ただ"アマチュア"という言い方は一般的に"プロフェッショナル"に対して、"素人"や"下手"と聞こえるから嫌なんですよ。何か違う言い方を作ってくれる人はいないですかね。」
自らの"やり過ぎている趣味"というジムカーナで、三年連続の全日本選手権チャンピオンという称号を獲得した小林選手。チャンピオンの称号は小林選手にとって、どのような価値のあるものなのだろうか。
「そうですねぇ・・・、全日本チャンピオンになっても、思っていたよりは女性にモテなかったですね。知名度も低いし(笑)。クルマと名前は知られていますが、顔は知られていないんですよ。
それはいいとして、実際にチャンピオンという肩書は自分が熱く生きていることの証で、次の大会に向けて頑張っていこう!というモチベーションの基になってくれますよね。」
熱い走りで人生を駆ける小林選手、もちろん来年もチャンピオンを目指して行くのだろうか。
「前提としての"チャンピオン狙い"はありません。それよりも、ひとつひとつの大会のゴールを目指してやっていますので。とにかく気持ちよく走れれば良い、それが素直な気持ちです。
自分が走ることの出来る環境が整っている限りは、個々の大会を楽しんでいきたいと思っていますし、今こうして走れることに常に感謝しています。
自分の本名は"久展(ひさのぶ)"と書くのですが、座右の銘を"永久発展"としているので、名前負けしないように頑張っていきます。」
ところで先に"クルマと名前は知られている"と自ら語った小林選手。ピンク色にカラーリングされた隼も鮮烈な印象を覚えるが、"キュウテン"というエントリー名も一度聞いたら忘れられないものだ。この"キュウテン"の由来を最後にお聞きしてみよう。
「あ〜、これはですね、小学校の時の話なんです。
テストを先生が返すときに、僕のことを"小林キュウテ〜ン"って呼んだんですよ。呼ばれた方としては"そんなに悪い点数なのか!?"ってドキドキしましたけどね(笑)。
それでクラス中に"キュウテン"がアダ名として広まって今に至っています。
今では自宅はもちろん、職場にくる年賀状の宛て名さえも"キュウテン"とカタカナで来るようになりましたよ(笑)。」
"永久発展"を続け、速さに磨きをかけていく小林キュウテン選手。
自身のドライビングテクニックはもちろん、マシンのポテンシャルも日々進化を遂げており、Dクラス最強の戦闘力を誇るK-one
Racing。
その走りを支え続けるADVANタイヤもまた、常に進化し続けていることは言うまでもないだろう。