■平岡拳成 選手 / 平岡 正 さん
平岡選手は小学校6年生。カートは幼稚園の年長組だった6歳から始めて、それ以来毎年競技会に参加しています。
「カートに乗せたきっかけは息子がやりたいと言ったからではなく、私が好きだったからなんですよ(笑)。たまたまどこかでレンタルカートを見て、試しに乗せたのが始まりでしたね。」
こう振り返るのはお父さんの正さん。
「初めて乗ったときのことは全然覚えていません(笑)。」
今やジュニアカートの第一線で活躍する拳成選手は照れながら、自らのカート初体験について語った。
その後、小学校1年生になって拳成選手はレースに初参戦。初陣は5台が参加したレースで周回遅れの最下位というものだったが、この初参戦を皮切りにレースキャリアを重ねてジュニアカート選手権へとステップアップを果たした。
「ジュニアカート選手権では今回が初優勝、かつ初めてのポイント獲得です。これまではリタイア続きで大変でした。」
息子さんの栄冠獲得について、正さんは満面の笑みで語る。
「今日のレースはずっとトップの後ろについていましたが、自分の後ろからも追いかけてくるので、あまりバトルに持ちこまないようにしました。バトルをしていると後ろの選手にピッタリつかれてしまうので。レースの最後、残り3周で仕掛けようと思っていました。最後に抜いたり抜かれたりになりましたが、結果的に初優勝出来て嬉しいです。」
自らのレースを冷静に分析する拳成選手。そのコメントは国内トップカテゴリーを走っている大人のドライバーも顔負けの内容だ。
「今回の戦いは、本人が自分でレースを組み立てて実践しました。
自分で第1コーナーのところにあるラップタイムボードを走りながら瞬時に読み取って、ライバルとのタイム差を計算してレースを組み立てているのです。」
戦いを見守っていたお父さんの正さんも、息子さんのレース展開には満足気だ。
ところでジュニアカートもモータースポーツ、そこに"危険と隣り合わせ"という印象を抱く方もいらっしゃるかもしれない。
「レーシングカートについて言えば、長年見てきていますが瀕死の重傷というような場面に出くわしたことはありません。
もちろん骨折などという怪我はありますが、それは野球でもサッカーでも同じ、スポーツをする上では珍しいことではないですよね。
モータースポーツ、その中でジュニアカートは、本人や周りが安全にきちんと配慮すればそんなに危険なものではないと思います。」
センセーショナルなアクシデントばかりが伝えられがちなモータースポーツであるが、ジュニアカートは安心して親子で楽しめるフィールドである。
そんなジュニアカートを戦う拳成選手、最後に将来の夢をお聞きした。
「まだ将来の夢について具体的なことは決めていません。今は目の前にあるカートのことの方が大切です。次のレースでも一番になりたいし、新東京サーキットのローカルシリーズではチャンピオンもかかっているので、とにかく勝ちたいです。」
こう語った拳成選手のまなざしは、大人と何ら変わらない"レーシングドライバー"の視線そのものであった。
■堤 優威 選手 / 堤 智行さん
準優勝の堤選手も優勝した平岡選手と同じ12歳・小学校6年生。カートは5歳くらいの時から始めたとのことだが、お父さんの智行さんが自動車レースやレーシングカートに参加していたことも大きく影響しているようだ。
「私がカートをやっていたから一緒にコースに行って乗せたのがキッカケでした。それからレースに参加するようになったのですが、私もカートレースをやっていたので息子が参加するようになったのも自然な流れでした。『今度の休みはカートに行こうか』という感じでしたね。」
小さい頃から智行さんの参加レース会場に一緒に行く機会も多かった優威選手、物心ついた時には既にモータースポーツが身近なものであったようだ。そしていよいよ自分自身も参加する立場になる。
「初めてのレースは雨でしたが優勝しました!」
難しいウェットレースでデビューウィンを飾ったことを優威選手は誇らしく語る。
「難しいコンディションだったのですが、きちんと走れてホッとしました。小さい頃から私のレースを間近に見ていたので、それも役に立ったのかもしれません。」
デビューレースを最高の形で終えた堤親子。着実なステップアップを果たして優威選手は2007年からジュニアカート選手権に参戦を開始した。
「選手権は今年一年目ですが、なかなか結果を出せなくて。タイム的には良いけれど接触があったりと流れに乗れずに来ていました。今回は歯車が良い形で噛み合って、素晴らしいレースを出来ましたね。」
準優勝という結果に智行さんは満足しているようだ。
「カートをやっていて良い成績になれることが一番の楽しみ。今日の2位も嬉しいです。レースは緊張しました。勝てるかな、とも思ったけれど、ちょっとコーナーでふくらんでしまった時に抜かれちゃいました。」
優威選手も、まずは好成績をおさめられたことに対する嬉しさを語ってくれた。
ところで優威選手に限らないことだが、ジュニアカートの選手たちは小学生や中学生。カートと勉学の両立はどのようにしているのだろうか。
「カートという競技で勝つことを目標にして一所懸命に頑張れるというのはとても良いことでしょう。目標があるからこそ勉学にも打ち込めるのだと思います。優威はこの二年間、体力づくりのために毎朝6時に起きてマラソンをしています。こうしたことを頑張って継続出来るのも、カートをやっていることで将来の目標があればこそ、ですね。」
優威選手に将来の目標を聞いてみると、
「目標はF1ドライバーです!今はキミ・ライコネン選手が好きです。」
多くのドライバーがカート出身という昨今のF1、夢ではなく目標として語ってくれた優威選手の瞳の輝きが印象的だった。
最後に智行さんに父親として子供とレーシングカートに参加していることと親子関係についてお聞きした。
「レーシングカートをやっていることで、親子のコミュニケーションがとりやすくなります。家にいてもカートという親子共通の話題がありますし。レースはもちろん、練習などでサーキットに行くことも多いので、必然的に親子で一緒にいる時間が長くなりますよね。うちの場合はほぼ毎週末サーキットに練習に来ているので、おかげで私の休みは無くなりましたが(笑)。
一般的には中学生や高校生になると子供は"親離れ"して親子が疎遠になってしまったりするものです。しかしレーシングカートをやっているとウチに限らず周りのみなさんも親子のコミュニケーションは一般の家庭よりも親密でしょう。そうしなければ速くなれないのですから。」
親子で臨む真剣勝負の世界。レーシングカートというモータースポーツフィールドは、親子にとってコミュニケーションの場であり、かつ社会勉強にも役立つフィールドなのである。