ブラジル、メキシコと中南米を転戦してきたWTCC(FIA世界ツーリングカー選手権)は、いよいよヨーロッパに戦いの場を移す。
ヨーロッパラウンドの緒戦となるのは昨年同様にスペインのヴァレンシア。レースウィークを控えてスペインの地では5年連続となるWTCC開催を待ちわびていたファンも盛り上がりを見せていることだろう。
このスペインラウンドは、とにかく話題性の高い一戦である。
話題の中心は新たなチームの登場についてだが、まずJASモータースポーツとNテクノロジーがジョイントして、ホンダアコード・ユーロRをいよいよデビューさせることが第一の注目点。
これまでもアコードはWTCCにスポット参戦した経歴があるが、今季はHONDAがマニュファクチャラーにその名を連ねた。チームは昨年までアルファロメオでシリーズを戦ってきた経験豊富なNテクノロジーと、ヨーロッパでのホンダのモータースポーツ活動における重要なパートナーであるJASモータースポーツが強力なパートナーシップを組んだのだから、その戦闘力に期待せずにはいられない。
しかも、ドライバーはジェームス・トンプソン選手が務める。昨年はNテクノロジーからアルファロメオで参戦していたトンプソン選手だが、ここヴァレンシア戦ではなんと2レースともに優勝を飾ったのである。
ウェイトハンディやリバースグリッド制が採用されているWTCCにおいて、同日開催される2レースをともに制するのは非常に難しい。歴史を振り返っても、トンプソン選手の他には2005年の第2戦でイヴァン・ミューラー選手が成し遂げただけである。
ちなみにヴァレンシアでは4月15日と16日に公式テストが行われており、トンプソン選手のベストタイムは2日間を通じてのトップタイムをマークしたシボレーのアラン・メニュ選手から0.6秒遅れで、全体では8番手であった。
そしてもう一台、いよいよロシアからラーダの参戦が実現することになりそうだ。一昨年は参戦を一旦は表明したものの結果的に姿を見せることが無かったラーダだが、5月6日から7日にかけてロシアン・ベアーズ・モータースポーツはオッシャーズレーベンで行われた公式テストにも参加を果たし、ヴァレンシアでのデビューに向けて準備が進められている。
さて中南米での開幕2大会は、とにかくセアト勢のディーゼルターボパワーが炸裂した結果となった。
セアト・スポーツから参戦する5選手のうち4人が優勝を飾っているが、ドライバーズランキングのトップは唯一優勝を掴んでいないリカルド・リデル選手となっているのが意外なところ。もちろんこれは、2大会/4レースにおいてコンスタントに上位を獲得し続けてきた結果である。
優勝を独占するという結果ゆえ、サクセスバラストの搭載量もセアト勢には大きなものが課せられている。リデル選手の場合、シリーズポイント26点×1kgで26kg、さらに前回のプエブラ戦の2レース合計得点数が1位だったために30kgが加わり、合計56kgを搭載する。
以下、実にバラスト搭載量の上位を5台のセアトレオンTDIが占めるかたちで臨むヴァレンシア戦。
低速コーナーを主体としたヴァレンシアのコースは抜き所が少ないことで知られており、まず重要になってくるのは土曜日の予選と言える。
予選でポールポジションを獲得すれば、逃げきりやすいコースという特徴を活かして優位にレースをコントロールできるからだ。
また、先に紹介した搭載バラスト量も今回の結果には大きく影響を及ぼすだろう。低速コーナーからの加速では、やはり軽さは大きな武器になる。事実、昨年のヴァレンシアで2レースを制したトンプソン選手が駆っていたアルファロメオは搭載ウェイトが少なかったのだから。
こうした背景を総合的に分析すると、これまで続いたセアトの独壇場にそろそろ終止符が打たれる可能性も高い。
そして今季初登場となるアコードはサクセスバラストを搭載していないため軽さに勝る。トンプソン選手が昨年同様の活躍を見せてくれるのかも気になるポイントだ。