2011年シーズン、実に8つのクラスでチャンピオンを獲得したヨコハマタイヤ。好成績をおさめた翌シーズンとなる2012年、ヨコハマタイヤの全日本ジムカーナ選手権・担当エンジニアである三戸有資は、どのような思いでシーズンに臨んだのだろうか。
「コンペティションの激戦区である全日本ジムカーナ選手権ですから、タイヤの商品開発競争が更に激化する、という予想でシーズンを迎えました。
そんな中、ヨコハマタイヤは夏の厳しい暑さの下で強さを見せており、2012年も順当に戦っていきたいという願いを強く持っていました。また、突然のゲリラ豪雨なども予想されるところであり、2012年も夏場をどう乗り切っていくか、ということが勝負を分ける大きな要素になるとも考えていました」
夏の暑さが勝負の鍵になると語る三戸エンジニア。だが一方では、まだ寒さも残る開幕戦の本庄では8つのクラスで優勝、クラスもPN部門からD部門まで満遍なく制したことで上々のシーズンインとなった。
「そうですね、ジムカーナではタイヤに対してゼロスタートからのウォームアップ性能、そして高いポテンシャルの持続性能が強く問われるのですが、寒い中で好成績を残したことは特別な意味があると思っています。
各クラスを通じて、かなり内圧についての議論を交わし、その甲斐もあっての8クラス優勝になりました。
しかし、ADVAN A050については、第2戦以降で気温や路面温度が高くなっていくことに対して、どのタイミングでG/2SコンパウンドからG/Sコンパウンドにシフトしていくべきか、という悩みも抱えました。タイヤとしてG/Sの方が物理的・理論的に高い特性が出ることを知っているがゆえの悩みです。G/Sを早い段階から用いることで、絶対的なタイヤパフォーマンスを武器にして、ライバルに対するリードを拡げていきたいと考えていました」
最終的には各クラスで激戦が繰り広げられる中、N1クラス、SA1クラス、SA2クラス、Dクラスでシリーズチャンピオンを獲得したヨコハマタイヤ。改めて2012年のシーズンを、三戸は次のように振り返る。
「パドックでは『最低5勝はしないと、チャンピオンは決まらない』などとも囁かれており、勝っても勝っても決着がつかない……、長い一年だったように思います。
『タラ、レバ』の話をするつもりはないのですが、最終戦の第1ヒートまではN3クラスとSA3クラスでも、ヨコハマタイヤ装着選手にタイトル獲得の権利がありました。最後は第2ヒートのタイムによって両クラスともに極僅差での2位となりましたが、最後の最後までタイトルの可能性を秘めていた、とても白熱したシーズンでした」
白熱した一年を戦い抜いたタイヤ、特にADVAN NEOVA AD08とADVAN A050の強さについて、ここで三戸エンジニアに改めて聞いてみた。
「NEOVAはジムカーナのみならず、サーキットでの使用も強く意識した商品です。すなわち、高速・高Gでの連続走行における特性に冠しても、チューニングを施しています。縦のトラクションから横のトラクションへの移行をいかにスムーズにするか、あるいは限界察知性能、限界以降の穏やかな過渡特性など、誰でも相当に高い次元で攻め込める扱いやすいタイヤに仕上げています。
一方のA050ですが、そもそもジムカーナは一般的に知られている路面温度やタイヤ空気圧といった因子に加えて、路面の状態に支配される部分が多いという特徴があります。その日その時のμ、具体的にはラバーグリップや異なる舗装への寛容度合い、オイルなどが撒かれた場合の処理状況といったものですね。さらに第1ヒートと第2ヒートを比べたときの路面温度の違い。これは単に日照だけではなく、路盤材の黒色度でも大きく変わります。
こうした非常に繊細な一面を見せるコースによってタイムも大きく左右されるわけですが、これを僅か2回の本番走行に向けて状況を予測し、見極め、対処するという特殊なカテゴリーであると言えるでしょう。
さまざまなタイヤサイズや駆動方式、軸重やパワー、そういった違いに対して懐が深く、それでいて攻撃的な部分も持ち合わせるタイヤがA050であると思います。近年、コースジムカーナが増えてきましたが、サーキットでも実力を見せてきたタイヤだけにA050の強みが発揮されていると思います」
さて、ヨコハマタイヤ装着選手とともに2012年シーズンを戦った三戸エンジニア、もっとも印象に残っている一戦はその大会なのだろうか。
「やはり最終戦のイオックスアローザですね。2010年以来の全日本選手権開催となったイオックスですが、2012年はライン取りの影響もありましたが、全体的にウネリが多く、滑りを助長する比較的大きめな砂粒もあり、さらには最終パイロンセクションでとても目の細かい新舗装区間もあったために、過去にない色々な意味で難しい一戦となりました。
また、シーズン唯一のパイロンジムカーナということで、選手も一部では苦戦していたようですね」
全日本ジムカーナ選手権の現場では、多くの選手と議論を交わし、まさに選手と一丸となって勝利を掴んできた三戸エンジニア。最後に、ヨコハマタイヤとともにジムカーナを戦った選手、関係者へのメッセージを語る。
「全日本ジムカーナ選手権にヨコハマタイヤで参戦された皆さまの熱い走りに、深謝申し上げます。
私事ですが、11月いっぱいでモータースポーツ部門を離れて転属となりました。これまでお世話になった皆さまに感謝申し上げるとともに、来季は後任の担当が皆さまと勝利を目指して戦っていきますので、変わらぬご愛顧・ご指導をお願いいたします。
私も担当部署ではなくなりましたが、2013年の全日本ジムカーナ選手権でもヨコハマタイヤユーザーのますますのご活躍を祈念しております」