Dクラスはディフェンディングチャンピオンが不在という中で2011年シーズンが幕を開けた。そこでチャンピオン獲得の筆頭候補として注目を集めたのが小林キュウテン選手。それまでのピンク色から2008年の第2戦・名阪で一新されたイエローのボディカラーもお馴染みとなったスズキ隼を駆り、これまでに5回のDクラスチャンピオンを獲得してきた強者の一人だ。
しかし今季、マシンやクラスは変わらないものの、チーム体制には変化が生じた。
「長くコンビを組んでいたメカニックから、新たにSUPER GTの300クラスまでを経験しているメカニックに替わりました。体制としては十分なものを整えていただきましたが、やはりレースのメカニックとジムカーナのメカニックは基本的に違うもの。根本的にジムカーナはメカニックの担う部分に細かいことが多く、セッティングについてはドライバーからの指示が多いという特徴もあります。
レースとジムカーナの、どちらが凄いとか偉いということではありませんが、最初のうちは噛み合わない部分もあって互いに理解し合う時間が必要でした」
こうした状況で迎えた2011年シーズンだったが、チャンピオンを奪還した現在、キュウテン選手がもっとも印象に残る一戦として挙げたのは事実上の開幕戦となった名阪ラウンドだった。
「名阪は2番手だったのですが、改めて車載映像を見るとあれ以上は絶対に速く走れないという内容でした。自分の身体もしっかり出来ていたし、感覚的な自分自身のコントロールセンサーも万全だった。あのパッケージングで、あれ以上のタイムは絶対に出ないんです。
なのに、どうしてこんなタイムなんだ、と。あの状況で同じクルマに乗っていればライバルよりも絶対に速く走れたと思いましたし、僕の方がドライバーとしてのスタビリティを持っているという自信もあった。それがあそこまで負けたことで、『今年はどうなるんだろう』という船出になりましたね」
今シーズンは、新しい体制になって"産みの苦しみ"を味わうことになったキュウテン選手。しかし、そこはドライバーとメカニックが互いに経験を活かして、着実に前進を続けていった。
「タカタくらいまでは色々とありましたが、細かいことを改めてメカニックと一緒にしっかり実証しながらやっていくことで、だんだんと互いに噛み合うようになってきました。そのことは確実に結果にもつながり、SUGOでの今季初優勝、そしてそこからの連勝へとつながりました。
メカニックも前任者とは違う提案をしてくれることもあります。昨年まででマシンについては進化が鈍っていた面もあったのですが、今年になって新しい進化の方向性が出てきた部分もあります。チャンピオンを確定させて臨んだ最終戦でも新しい試みをやっていて、これは来シーズンに向けての大きな効果も生んでいることを確認できました」
こうして尻上がりに調子を掴み、最終戦を待たずしてチャンピオン奪還を決めたキュウテン選手。
ところで今年は3月に発生した未曾有の大震災がモータースポーツ界にも大きな影響を与えたが、キュウテン選手は本業の面でも震災と正面から向き合うこととなった。
「僕は東海地震の可能性も高い静岡市の公務員。ですから仕事の関係で東北にも何度も足を運びましたし、地元についても防災体制や福祉体制のことなど大忙しでした。建築技師でもあるので、耐震に対する市民の皆さんからの相談を受けたり、応急危険度の判定について携わったりと大変でしたね。
そんな中で被災地の東北にあるスポーツランドSUGOでも全日本戦が行われましたが、僕たちが行って元気づけられることがあれば、微力でも何かお手伝いしたいという思いがありました。2012年は仙台ハイランドで全日本戦が開催されることになりましたが、震災で大きな被害を受けたハイランドに僕たちが行って戦うことで、ハイランドや東北のモータースポーツが元気になっているということを伝えられれば良いな、と思っています。また、ナンバー付のクルマであればこちらから被災地に出向いて子供たちと触れ合ったり、参戦と合わせてボランティア活動をしていったりと、何かそういった活動を継続していければ良いですよね」
シリーズ後半の連勝で、来季に向けた弾みもついたキュウテン選手。2012年、そしてこれからの活動についてお聞きした。
「来年も、今年と同じようにやっていきたいですね。ただ、自分もこの歳になって中間管理職になると、活動に時間的な制約が生じてくる可能性もあるんです。今はとても理解ある上司に恵まれていますが、この先は仕事の関係で金曜日や土曜日から会場に入ることが出来なくて、時には決勝ブッツケ本番ということがあるかもしれません。
でも、それはそれで言い訳無しで、決して引退という方向ではなく、やれる範囲で走れるうちは極力走っていきたいと思っています。何らかの形で、アマチュアの美徳としてジムカーナやモータースポーツには関わっていきたいですね」