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/ Vol.108
News Index
5月12日から14日にかけて開催されたIRC(インターコンチネンタル・ラリー・チャレンジ)の第3戦「ツール・ド・コルス」。この伝統ある一戦で、ひときわ注目を集めたマシンが、スバルWRX STI spec C・R4である。
FIA(国際自動車連盟)が新たに導入した車両規定の「R4」に合致した世界で初めてのマシンは、新井敏弘選手の手でドライブされて見事にノートラブルで完走を果たした。
このR4規定とはどのようなものなのか、STI(スバルテクニカインターナショナル株式会社)の嶋村誠さんにお聞きした。
「改造範囲がとても制限されたグループNに対して、世界中のいろいろな自動車メーカーの要望もあって『S2000』という規定が導入されたのは皆さんご存じの通りです。S2000はエンジンや駆動方式など大きな部分の改造も可能で、ポピュラーカーをベースに本格的な競技車両を作ることが出来るので、参戦台数も増えてラリーも賑やかになってきました。
しかし性能の向上が著しく、従来のグループN車両と比べて速さの差が目立つようになってきたのです。そこで性能の均衡を図ろうという動きが出てきて、グループN車両を進化させるためにR4という規定が導入されました」
スバル/STIでは、新しいR4規定に合致するパーツを開発、FIAのホモロゲーション(公認)を取得した。グループNとR4の相違点として挙げられるのは、冷却性能/車両重量/サスペンションである。それぞれ、どのような違いがあるのだろうか。
「冷却性能については、ボンネットに冷却風をエンジンルームに導入するための穴を200平方センチメートルまでの大きさであけても良いとされています。これはGRB型のWRXにとっては大きなメリットです。なぜならノーマルの状態でGRBには穴が無いですから。なお、エンジンそのものはグループNのままとなっています。
次に車両重量ですが、大幅な軽量化が認められています。そのために軽量化パーツの使用が認められましたが、材料の置き換えは許されていません。これは高価な素材を使うことにつながるので、コスト抑制のためでしょうね。
ではどうするかというと、規則に従って材料や外観はオリジナルのままに、競技に不要な内側の部分を切ったり取り外して軽量化していきます。例えばドアやリアハッチのゲート、ボンネットといったいわゆる“蓋もの”などを開発して公認を取得しました。あとは室内ではダッシュボードも軽量化仕様になっていますし、面白いところではエアコンとヒーター。これは本来なら8kgくらいの重さがある部分ですが、本当にシンプルで窓の曇り止めに温かい風が出るだけのものとして、2kgに抑えることが出来ました。
車両全体では70kgくらいの軽量化に成功していますが、特に運動性能に効いてくる部分の軽量化を重視したので、バランス良く仕上がったと思います」
「サスペンションに関しては、グループN規定では元々の量産車のリンクを使って、足りない部分に当て板をしても良いとされていました。これがR4では基本的に取付点の座標そのものを±10mmまで動かして良いとされて、さらに専用品も作ることが認められました。
そこで強度と耐久性をあげるためと、走行性能をあげるという両方のメリットを考えて、リンク類を全て公認申請しました。特にリアについてはサブフレームをはじめとした全てのリンク類を対象にしています」
STIは国内外のラリーフィールドで活躍を見せてきているが、IRCという舞台に本格的に登るのは今シーズンが初めてのこと。IRCに寄せる期待も大きいようだ。
「やはり世界的にスバル、STIというとラリーのトップフィールドで戦っているイメージは強いですよね。WRC(FIA世界ラリー選手権)ワークス活動を終了した今でも、まだラリーで強いという鮮烈な印象が多くの方々に残っていると思います。
そこで今年からはIRCにスバルがマニュファクチャラー登録をして、本格的に活動することになりました。IRCは世界中にテレビなどで情報が伝わりますし、初めてのR4仕様車に新井敏弘選手に加えて奴田原文雄選手が乗るということも、大きな話題性というか、ドラマがある参戦になると思います。
そしてラリーはヨーロッパやアジア諸国で根強い人気を誇るモータースポーツ。さらに面白いのはアメリカで、北米でラリーというとピンとこない方も多いでしょうが、北米の人たちはラリーに対してテレビゲームで親しみがあるというケースが多い。実際に生で観たことが無くても、バーチャルな世界で自らラリーを“戦っている”ファンが多いんです。そこでスバルを駆って『このクルマは速くて格好いい』というファンが増えているんです」
今回のR4プロジェクトを担当する嶋村さん。大学では自動車部でラリーをやっていて、入社試験の面接でも「ラリーをやりたい」と訴えて富士重工業に入社した。実験部門に配属された後にはサファリラリーを皮切りにラリーに携わってきたが、これまでの経験では、ある業務がラリー車の開発にとても役立っているという。
「入社してラリー関係の仕事が長かったのですが、あるとき『おまえも、一度は量産車を経験してこい』と言われて、操縦安定性に関する部署に移動しました。その時にはサスペンションなどの足回りを主に見ていて、インプレッサにも関わったりしたのですが、今の自分にとって肥やしになっているのは軽トラックの“サンバー”を担当したことなんです。
軽トラックはコストにとてもシビアで、お金をあまりかけることが許されない。その上で、空荷の状態から荷物満載まで、あらゆる場面で絶対にスピンしない安定した車に仕上げなければなりません。とにかく知恵を絞って良い車を作ってきたのですが、この経験は本当に役にたちましたね」
ADVANラリータイヤにとっても、IRCへの本格参戦がスタートした2011年のシーズン。その皮切りとなった第3戦の「ツール・ド・コルス」に対して、今回の第6戦「ラリー・アソーレス」はグラベル(非舗装路)ラリーという大きな違いがある。
まずは日本国内のラリーと海外のラリーについて、その違いにを横浜ゴム・MST開発部のエンジニア・八重樫剛は次の様に語る。
「まずひとつ、海外は路面のウネリが大きいという大きなポイントがあります。日本の道は荒れていると言われていても割とフラット。一方で海外の道は、見た目がフラットなようでも実際に走ってみると車が大きく上下に動くような感じのところが多いですね。市販車でも例えばフランス車などが足を比較的柔らかいと言われるのは、上手くそのウネリを吸収させるためなんだなって実感できます。
その上で二つ目のポイントとしては、全体的なスピード域が日本のラリーよりも格段に速い。
スピードが高いと路面のウネリが強調されることになる部分もあって、タイヤとしてはそれにうまく追従できるような構造を、特にピークとなるところを狙っていかなければなりません。ドライバーのストレスを減らす意味でも、乗りやすさというのもとても重要になってきますね」
ラリー・アソーレスを戦うのは、PWRC(FIAプロダクションカー世界ラリー選手権)やAPRC(FIAアジア・パシフィック・ラリー選手権)などで高い実績を誇るADVAN A053。IRCアソーレスに向けては日本国内でもテストを重ね、より戦闘力に磨きをかけて現地へと乗り込むことになる。
「グラベルタイヤについては、こうした日本と海外の違いというものもありますが、それ以前にイベントによって路面の土質が変わってくるので、事前に情報をしっかり収集した上で開発に入っていきますね。
アソーレスについては新井選手も奴田原選手も走られたことがありませんが、車のメンテナンスをお願いしているストールレーシングさんのストール代表が、以前にアソーレスで開催されたPWRC(FIAプロダクションカー世界ラリー選手権)に出場されているので、彼から聞いた話がひとつの貴重な情報になっています。
それによると火山灰のようなとてもお柔らかい土質ということなので、日本で言えばRally Hokkaidoあたりに近い感じなのかな、と。そして雨が降るととてもマッディーな路面になるという話も聞いています。こうした情報ももらいながら開発を進めてきました」
IRC参戦にあたってのタイヤ開発では、日本国内でもテストを重ねてその性能を磨き上げてきた。
「テストではまず、我々が持っている基準となる仕様に対して、新井選手と奴田原選手がどのようなリクエストを持っているのかを確認する作業から始めました。
ドライバーのお二人はそのドライビングスタイルが全く違うと言っても過言ではなくて、それぞれのスタイルで我々が持っている手の内の中からどれをチョイスするのか、というスタイルでテストを重ねてきました。その上で、足りないという部分があれば改良していくという流れです」
今回は新井選手と奴田原選手、日本を代表するラリードライバーによるSUBARU×ADVANでの競演が実現するという、世界中のラリーファンが注目する大会。もちろんタイヤ開発を担うドライバーもこのお二人だが、それぞれのドライビングスタイルには大きな違いがあるようだ。
「これは僕の勝手な見解ですが、新井選手はやはり世界のドライバーという感じのスタイルですね。タイヤ開発という面では、ピッタリとそのスタイルにはまると速いのですが、やや独特な部分もあるのでそのままではビギナーの方にとって扱いにくいタイヤになる可能性もあるのではないかと思います。
一方の奴田原選手はとても基本に忠実なスタイルで、ブレーキングでしっかり荷重移動をしてから曲がっていくので、タイヤとしては誰でも乗りやすいものになっていくでしょう」
では、お二人それぞれに全く異なる専用のタイヤが生みだされる、ということなのだろうか。
「いや、それが面白いもので、現実的にはそれほど変わらないものに仕上がってくるのです。
ドライビングスタイルは大きく違う両選手ですが、そのベクトルというか方向性は不思議と一緒で、これは自分にとって予想外のところもありました。
やはりスタイルの違いはあっても、“速く走る”という共通した目標のためには基本は一緒ということなのでしょうね」
今シーズンから初のIRC本格参戦を果たすADVANラリータイヤ。その初めての開発担当者となったの八重樫エンジニアだが、IRCは大いにやり甲斐のある仕事だと力強く最後に語った。
「やはり、これで勝ったら『俺が世界一だ』みたいな感じがありますから、やり甲斐がありますよね(笑)。世界で最初のR4規定マシンですし、そのマシンに世界で初めて装着されるタイヤだということもありますし。やっていてとても楽しいプロジェクトです。
これまでテストを重ねてきて、日本を代表するトップドライバーのコメントに基づいて出来たタイヤですから、大いに自信を持ってアソーレスに臨んでいきます。特にグラベルラリーにおいてADVAN、ヨコハマタイヤというのは世界的にもその実力の高さを知られているところですから、ぜひ期待してほしいと思っています」
[UPDATE : 13.Jul.2011]