■島田 淳 (横浜ゴム・モータースポーツ部 技術開発2グループ リーダー)
エコレーシングタイヤの開発第一弾は、非石油系資源の使用率を向上させることでした。レーシングタイヤに求められる第一の性能は、とにかくグリップが高いということ。これが1番重要になります。
非石油系資源の使用率を高めると、耐摩耗性が向上し、転がり抵抗が低減するものの、グリップ力も低減してしまいます。
我々タイヤエンジニアは、このグリップを少しでも高めるべく、さまざまなコンパウンド、あるいはタイヤの仕様といったものを日夜開発していますが、その中で発見された、作り上げられたものが「オレンジオイル」です。
「オレンジオイル」というのは、ゴムとの親和性が非常に高く、ポリマーとなじみやすい。この結果、非常にしなやかで、なおかつゴムそのもののダンピングが効くような性質に変えることが出来るのです。
一般的にレースのタイヤはタイヤのゴム温度が80度から100度といった非常に高い温度で使われます。この領域におけるダンピング特性を「オレンジオイル」を配合することで改善し、ピークグリップそのものを高くすることが出来ます。
さらに従来のゴムというのは、高い温度になるとダンピング特性が低下する特徴があります。いわゆる高温時にラップタイムが低下する「タレ」と呼ばれるものですが、この「オレンジオイル」は高い温度においてもダンピング特性を維持することから、タレを抑制する効果もあるのです。
このように、「オレンジオイル」をレースのコンパウンドに用いると、タイヤ全体の性能がアップする効果に加え、非石油資源である「オレンジオイル」を配合することで、石油資源を削減出来るという、タイヤ性能の向上と環境に貢献するといった2つの良い点が認められています。
既に2009年のスーパー耐久でその実力を示したエコレーシングタイヤですが、ここまでのパフォーマンスに仕上げるには様々な苦労がありました。
2008年の十勝24時間レースからスタートしたエコレーシングタイヤの開発ですが、この時には非石油資源を極限まで高めた「プロトタイプ」のコンパウンドを投入していました。その際には当然レースシーンで使われる領域でグリップアップというものが認められましたが、極限まで配合を高めた結果、残念ながら、初期グリップが若干低下するという問題がありました。
これを解決すべく、我々は2009年に様々なトライを行ってきた結果、この非石油資源の配分の最適化を行いました。その結果ピークグリップを維持しつつ、初期グリップを改善するといったことに成功し、従来仕様のレース用タイヤに対して、プロトタイプほどの配分ではありませんが、かなり多くの非石油資源を使ったレーシングタイヤが完成したのです。
このコンパウンドは、2009年度のスーパー耐久シリーズのテストデイ、あるいは実戦を通していろいろ試してきましたが、従来仕様のタイヤに比べてピークグリップの高さも高いうえに、初期グリップも大幅に改善されたことが証明されました。また、操縦安定性等も大幅に改善され、全体的に非常にバランスのとれたコンパウンドに仕上がっています。
数値データだけではなく、我々が一番重要視するのはドライバーのフィーリングですが、ドライバーのフィーリングとしても、ピークグリップが高く、ウォームアップもよい、タレ感もないというコメントが寄せられました。
我々の狙い通りのコンパウンド、あるいはタイヤに仕上がっていると言えるかと思います。