−今日行ったテスト走行の内容と成果を教えてください。
関谷さん :
「今日で二回目の走行ですが、一回目のテスト走行で出た初期的な不具合に対して用意した、いくつかの対策部品の性能確認が主な目的でした。
車そのものはまだ本格的なレーシングレベルではなく、エンジンなどは市販するカローラアクシオGTに少しだけ手を加えた程度です。パワーで言えば155〜160psといったところでしょうか。
2分5秒6というベストタイムは予想通りのものです。これからエンジンにもう少し手を加えていくので、まだまだ速くなるでしょう。
テストメニューとしては、27周をしっかり走って全てのパーツがきちんと機能していることを確認出来ました。」
−なぜワンメイクレースの素材として「カローラアクシオ」を選ばれたのですか?
関谷さん :
「個人的にはWTCC(FIA世界ツーリングカー選手権)を見て、4ドアツーリングカーの格好よさに改めて憧れていました(笑)。
良い素材があって環境が許せば、WTCCはチャレンジしてみたいレースのひとつですね。
1500ccターボエンジンを搭載する素材としてカローラアクシオを選んだわけですが、周りには「なんだよ、カローラでやるの?」という声も実際にはありました。
しかしN2という規則に準拠した車なので、外観にも手を加えることが許されます。実際に造ってみたら「意外に格好いいね」と言われるようになりました(笑)。」
−N2規則をベースとすることになった背景は?
関谷さん :
「許される改造範囲の広いN2には、車を弄る楽しさがあります。ある程度の範囲で自由な部分があって、その中でレーシングガレージやショップが創意工夫することが出来ます。
一方では自由であるがゆえに競争が過熱して、経費がかかるようになってしまうことへの懸念もあります。
その点は富士スピードウェイとしっかりスクラムを組んで、手を加えることが許されるところとダメなところを明確にして、お金のかからないレースとなる規則を制定していきます。」
−ワンメイクレースでN2規則準拠というカテゴリーは最近ありませんでしたが。
関谷さん :
「N-0のヴィッツでコンプリートカーを造って売っているTRDが、N2を始めたというところが面白いでしょ?(笑)
ナンバープレートが付くN-0は、モータースポーツを広く普及させる効果が絶大です。しかし改造は厳しく制限されていることもあって、レーシングガレージやカーショップの勢いが弱まってしまっているように思えました。
私は仕事でSUPER GTなどにも行きますが、若いメカニックがなかなか増えません。モータースポーツは"3K職場"のように思われてしまって敬遠されているのでしょうか。
やはり若い息吹を入れなければいけないですよね。車を弄ることの楽しさ、創意工夫を重ねて車を速くすることの喜び。それを知って、実際にやってもらうためにはN2が最適だと思うのです。」
−エンジンには1500ccターボが採用されましたが。
関谷さん :
「元々TRDとして実績のあるエンジンというのが選んだ理由ですが、私個人としては排気量1500ccというところがキーポイントだと思っています。
もし2000ccエンジンでやろうとすると、適したエンジンが今はあまりありません。しかし1500ccエンジンは、トヨタに限らず各メーカーが持っているのです。
ということは大きな声では言えませんが(笑)、個人的には「1500ccターボ・カップ」に発展していく可能性も考えられるのではないかと。各メーカーの色々な車種が走って、成績に応じてWTCCのようなハンディバラストで性能を調整していくと、面白いレースになると思いませんか?」
−参戦経費の抑制にも力を入れられているとお聞きしています。
関谷さん :
「そうですね。まずカローラアクシオがベースということで車両本体もパーツも安価。調達も全国的に容易でしょうし。
さらに車両制作費や維持費を抑えるための工夫も採り入れています。例えばブレーキキャリパーは、他メーカーのN1車両と同じサイズを採用しています。
他にもバケットシートやステアリング、シートベルトなどなど、もしガレージや手元に余っているレーシングパーツがあれば、規則に沿ってそれらを効率的に使うことで安く車を仕上げることが出来るでしょう。
改造範囲が広いことのメリットを最大限に活かすことで、色々なパーツメーカーさんも参入しやすいように門戸を広くしているのが"カローラアクシオGTクラス"です。
最近は良く『レースをするためのベース車が無い』という嘆きの声を聞きますが、ちょっと発想を変えることで面白いレースが出来るだろうと思います。」
−日本のモータースポーツの将来に向けて可能性を感じますね。
関谷さん :
「これまでのお話しには、私個人の"妄想"も多分に含まれてはいますけれど(笑)。
最近の日本はモータースポーツについては暗い話題ばかり続いていますよね。私個人としてはこんな状況に納得出来ない部分もあるのです。
どうして最初にモータースポーツが切られてしまうのだろう、と。世界的に自動車メーカーは苦しい状況にありますが、ヨーロッパもアメリカも決してモータースポーツから我先にと手を引くようなことはしていませんよね。
残念ながら日本ではモータースポーツが"文化"として、まだまだ未成熟なように感じてしまいます。
ですからこの"カローラアクシオGTクラス"については、長い目で定着させて盛り上げたい。まずは2009年に富士スピードウェイで4戦を開催すると発表しましたが、ここでしっかりと地固めをしたいと考えています。
既に全国展開を望む声もありますが、もちろんそれは視野に入っています。各地でシリーズがあって、地区をまたいだ交流が生まれて。WTCCのようなビッグレースに参加者みんなで行ってサポートレースとして戦うなど、色々出来るのではないでしょうか。
しかし、最初に大きく風呂敷を広げてしまうと、何かの機会にレースがまるごと消滅してしまう可能性もあり得ます。
ですから"カローラアクシオGTクラス"はみなさんと一緒に楽しみながら、地道にしっかりと育てていきたいと思っています。」