−はじめに、この車を開発するに至った経緯を教えてください。
太田さん :
最近は参加型のJAF公認ワンメイクレースが数多く開催されていますが、そのほとんどは公道を走行できるナンバープレートのついた「N0(エヌ・ゼロ)」や、市販車ベースに改造範囲が厳しく制限された「N1(エヌ・ワン=量産ツーリングカー)」です。
これらはレースに参加する上で改造を許されている範囲がとても狭く、ベース車両の性能に寄る部分が大きいのです。
つまり、仮に何か物足りない部分や性能を高めたいところがあったとしても、参加者やレーシングガレージが創意工夫を凝らしてポテンシャルを高めるために施せる改造範囲が、とても限られています。
そんな中で今回、富士スピードウェイがカローラ アクシオをベースに改造範囲の広い「N2(エヌ・ツー=特殊ツーリングカー)」規則を作ることになりました。それに対するTRDとしての提案が、この「カローラ・アクシオ"GT"N2」という車です。
−先に「N2」というカテゴリーがあった、ということですか?
太田さん :
そうですね、N2というカテゴリーで展開するための車種を検討していく中で挙がってきたのがカローラ
アクシオだったのです。
タイミング的にもトヨタとしてカローラの存在を改めて打ち出していきたいということが背景にはあります。TRDとしても、カローラでJTCC(全日本ツーリングカー選手権)を戦ったことがありますから、思い入れの強い車種でもありますね。
−レース参戦のベース車両としてカローラの特徴とは?
太田さん :
走行性能の前に、レースに参加する上でメリットとなる面からお話ししたいと思います。
まずカローラならではの美点が「買いやすい」ということ。年間の販売台数が多いですし、日本中で愛用されている車種ですから、全国どこでもベースとなる車をすぐに手に入れることが出来ます。
さらに車体に限らず、パーツ類の入手も容易ですよね。ということは、不幸にもクラッシュやトラブルに見舞われてしまったとしても、補修パーツの調達や入手がしやすいわけですから、参加者の負担を軽減することが出来ますね。
次に車そのものとしては、全幅を1700mm以下に抑えたいわゆる「5ナンバーサイズ」であることが特徴に挙げられるかと思います。このサイズは街中のみならず、サーキットでもとても使いやすいものになるでしょう。
ボディは衝突安全性能を高めている昨今、自動車の重量は増える傾向にあります。しかしコンパクトな5ナンバーサイズが功を奏したこともあって、現状でも1トンを切っています。開発を進めることで更なる軽量化も可能ですが、これが大柄な3ナンバーボディだったとしたら1トンを切ることすら難しかったかもしれません。
−エンジンはターボチャージャー付きですね。
太田さん :
排気量1,496ccの直列4気筒・1NZ型エンジンに、TRDオリジナルのターボを組み合わせています。
このターボはTRDが開発したもので、豊富なデータやノウハウを私たちは持っていますから、レース用に新たなエンジンを開発するよりもメリットが大きいのです。
さらにベースである1NZエンジンは先に述べた車体やパーツと同様に全国のトヨタディーラーが扱っています。ですからエンジンについてもパーツ類の入手が容易なので、メンテナンスコストの軽減などに効果的ですね。
−参戦するためのマシンは、どうやって用意すれば良いのでしょうか?
太田さん :
東京オートサロンの場に展示しているのは開発用のテストカーですが、コンプリートカーをTRDとして販売する予定です。価格的には660万円程度でのデリバリーになるでしょうか。
規則的にはJAFのN2車両規定に則った上で、ロールケージやオーバーフェンダー、コンピューターなどは指定パーツとする予定です。これらはキットパーツとしてTRDが販売する予定です。
こうして安全性を均一に確保しつつ、エンジン改造などでの無用な競争激化を抑えていこうという趣旨です。
もちろんコンプリートカーに限らず、規則に従って各レーシングガレージで車を造ることでの参戦も可能です。
中古車でカローラ アクシオを用意して、指定パーツを揃えて装着。あとは他のカテゴリーレースで使っていたガレージに残っているスペアパーツなども活用できるような方向性を作って、350万円くらいで参戦出来るように、といったことも考えています。
−とても参加者のことを考えているカテゴリーですね。
太田さん :
私を含めて、このプロジェクトメンバー全員には、あくまでも個人のレベルですが"共通の思い"があります。
それは経済的に厳しい時代にありますが、そんな中でもモータースポーツ文化を絶やすことなく、発展させて行きたいということです。
「N2」という規定によって、決して過剰競争にならない範囲でレーシングガレージの皆さんも"腕の見せ所"になるレースでしょう。
そして何よりも、何度も申し上げているように参加者に無理な負担を強いないことがこのレースの大切なコンセプト。
この「カローラ アクシオGT」を素材にしてモータースポーツが全体的な盛り上がりを見せて、長く皆さんに楽しんでいただきたいと思います。