壮絶な接近戦が随所で演じられた、前戦・ハンガロリンク。第1レース(第7戦)ではシボレーのイヴァン・ミューラー選手がポール・トゥ・ウィン、第2レース(第8戦)は3番手スタートのロブ・ハフ選手がオープニングラップとセーフティカー解除後のともにターン1で鮮やかなパッシングを披露して、待望のセアトでの初優勝を飾った。
また、ハンガロリンクで表彰台には届かなかったものの、見応えのある戦いを演じてくれたのがBMWのトム・コロネル選手だ。アグレッシブにプッシュを続け、先行するマシンに食らいついていくドライビングだったが、その背景には巧みなタイヤマネージメントがあることも忘れてはならない。
距離にして50〜60kmの決勝レースで競われるWTCC。分類としてはスプリントレースとなるが、長丁場の耐久レースと同様に決勝でのタイヤマネージメントはときとして勝敗を分ける大きな要素となる。特にハンガロリンクは路面がやや粗いこともあって、決勝の中盤から後半にかけての展開を見据え、ここ一番の勝負どころで高いグリップを得るためのタイヤマネージメントが必要となってくるのだ。
前戦のコロネル選手は、ドライブするBMWがFR(後輪駆動)車ということでFF(前輪駆動)車よりもタイヤの摩耗性能が優れる。このメリットを活かして、中盤から終盤にかけて激しい順位争いを演じた戦いぶりだったと言えるだろう。
さて、次の戦いはオーストリアのザルツブルグリンクが舞台。昨年初めてWTCCが開催されたコースだが、ここはハンガロリンク以上にタイヤに対するシビアリティが高いコースだ。事実、昨年の大会では第1レースこそセーフティカーの導入もあって上位陣に大きな波乱は無かったものの、第2レースではスタートから激しいポジション争いが演じられた結果、最終ラップでまさかの大逆転劇が演じられることとなった。
12周のレースは終盤になってシボレー勢がトップ3を奪う。しかし、8周目に3番手を走っていたアラン・メニュ選手と第1レースで優勝を飾っていたアレックス・マクドワル選手がコースオフして戦線を離脱。さらになんと、最終ラップではトップを走っていたミューラー選手がバーストからポジションをドロップ、代わってトップに立ったハフ選手までもが最終コーナー手前でバーストに見舞われてしまい、結果としてステファノ・ディアステ選手の大逆転へとつながった。
もちろん各選手、チームともに事前のフリープラクティスなどを通じて、ザルツブルグリンクのシビアリティが高いことは充分に理解していた。ヨコハマタイヤとしても適切なインフォメーションを発しており、タイヤマネージメントにはいつも以上に気をつかって臨んでいた。
しかし、それでも実際にレースが始まると、ギリギリまで攻めた走りをするのがWTCC。FF車に厳しい展開が現実となってしまったわけだが、チームや選手はヨコハマタイヤの高いポテンシャルや耐久性能に信頼を寄せているからこそ、最後まで攻めの走りを続けられたとも語っていた。