ポルトガルでのストリート・バトルを終えたWTCC(FIA世界ツーリングカー選手権)は、戦いの舞台をイギリスへと移す。主戦場となるヨーロッパ・ラウンドも残すところあと3戦。タイトル争いではシボレー勢の強さが目立つ展開が続いているが、このイギリス戦はひとつのターニングポイントになるかもしれない。
なぜなら、WTCCが発足した初年度(2005年)から絶えることなく開催されているイギリス戦だが、今季は初めてドニントン・パークのコースで競われることになったのだ。
これまで初年度の'05年こそシルバーストーンで開催されたが、'06年以降はブランズハッチがWTCCの舞台となってきた。これが同じイギリスでも初めてのコースに変わることで、各チームはデータを持たない中でマシンのセットアップなどを短時間で進めなくてはならないのだ。
こうなると参戦体制が充実しているシボレーにとっては、強みを見せやすい展開になるかもしれない。セアトやBMW、ボルボ勢もマニュファクチャラー登録をしているとはいえ、自動車メーカーが本格的に全面支援を行っているのはシボレーのみとも言えるのが今シーズンの状況だ。ゆえに、その体制を背景に新規開催コースでは“チーム力の差”を見せつける結果になることも予想される。
そして3人のシボレー・ドライバーの中でも、もっとも優勝に執念を持っていそうな存在がロブ・ハフ選手。イギリス出身ということで、地元開催は黙っていてもいつも以上に闘志に火がつくのはドライバーとして当たり前のことだろう。しかし、さらに闘志をかきたてる理由として、ハフ選手は2005年からこれまで地元イギリスのWTCCで一度も優勝を飾っていないのである。
チームメイトのアラン・メニュ選手がブランズハッチを得意としており、'06年から'09年まで優勝を手中に収め続けてきたのとは対照的だ。ゆえに舞台もドニントン・パークに変わることから、ここはぜひハフ選手としては故郷に錦を飾りたいところだろう。
一方でYOKOHAMAトロフィーは熾烈なランキング争いが続いているが、初開催コースを攻略することもタイトル獲得の大きな条件になってきそうだ。
前戦のポルトでは2レースをともに制したノルベルト・ミケリス選手に対して、ブルノ戦を終えてランキングトップに立っていたクリスチャン・ポールセン選手は1レース目で2ポイントをなんとか獲得したものの、2レース目はノーポイントに終わって悪夢のようなレースウィークとなってしまった。この結果、ランキングはミケリス選手が3位から一気にトップへと躍進、ポールセン選手に対して5点のリードを奪った。
もちろんポールセン選手としてはランキングリーダーの座を奪還するために負けられない戦いとなるが、ポルトではYOKOHAMAインディペンデントトロフィーの元王者であるステファノ・ディアステ選手がヴィヒャーズ・スポーツから参戦したが、ドニントン・パークでも同チームは注目すべきドライバーを起用した。
そのドライバーとはコリン・タルキントン選手。BTCC(イギリス・ツーリングカー選手権)のチャンピオンであり、今年はBMWでスカンジナビアのツーリングカー選手権を戦っており、現在はシリーズ6番手につけている。
このタルキントン選手は、地元イギリスのコースを熟知していることで知られている。例えば昨年のWTCC、ブランズハッチ戦では2レースともにYOKOHAMAインディペンデントトロフィーを制したばかりか、総合順位で第1レースは3位、第2レースでは優勝のアンディ・プリオールに続く2位でチェッカードフラッグを受けている。
果たしてタルキントン選手の存在が、YOKOHAMAトロフィー争いに何らかの影響を与える結果になるのかも、とても興味深いドニントン・パーク戦となりそうだ。