WTCC初開催となった前戦・ハンガリーから中一週間を置いて、今週末行われるのが第9戦&第10戦のチェコ・ラウンド。舞台となるブルノ・サーキットは、ヨコハマタイヤがオフィシャルタイヤサプライヤーとなった2006年シーズンから、毎年WTCCの開催地に名を連ねてきており、今年で6回目を数える。
ブルノで過去5年、計10戦が戦われてきたWTCC。
その歴史をひもといてみると、興味深い事実を知ることになる(右写真は昨年の大会)。
まず過去5大会は、全てドライコンディションで決勝が戦われた。そして開催時期だが、2006年が9月初旬、2010年が8月初旬だったことを除くと、今年を含めてあとは6月中旬の開催となっている。
そして重要なのが、過去のウィナーたち。その顔ぶれは、次のような面々となっている(表記は“第1レース優勝者/第2レース優勝者”)。
2006年 : ヨルグ・ミュラー(BMW)/ロブ・ハフ(シボレ)
2007年 : フェリックス・ポルテイロ(BMW)/ヨルグ・ミュラー(BMW)
2008年 : アレッサンドロ・ザナルディ(BMW)/ガブリエレ・タルクィーニ(セアト)
2009年 : アレッサンドロ・ザナルディ(BMW)/セルジオ・ヘルナンデス(BMW)
2010年 : ロブ・ハフ(シボレー)/アンディ・プリオール(BMW)
このように、実に10戦中、7戦でBMW勢が優勝を飾っている。勝率は70%となり、車種/メーカー別で見るとBMWがブルノを得意とすると言って差し支えはないだろう。
その理由を分析すれば、ハイスピードとテクニカルが巧みに融合されたコースレイアウトにあると語るドライバーが多い。例えば昨年までセアトをドライブしていたトム・コロネル選手は、このレイアウトは特にFF(前輪駆動)車にとってタイヤのシビアリティが高いと語っている。
こうした発言も、BMWが70%を誇る勝率を見れば、確かににそうかと思わせる分析である。
しかし、ドライバー別に見ると2勝を挙げているヨルグ・ミューラー選手もアレッサンドロ・ザナルディ選手も、残念ながら現在のWTCCではステアリングを握っていない。それどころか、BMWを駆ってブルノで優勝を経験した選手は、今季誰一人としてWTCCに参戦していないのである。
そうなると必然的に、ロブ・ハフ選手とガブリエレ・タルクィーニ選手に注目が集まる。
ハフ選手はモンツァでの2レース制覇などで、シリーズランキングのトップを走っている。一方のタルクィーニ選手はベルギーで一勝を挙げ、先のハンガリーでも3位表彰台を獲得して、ランキングはシボレー勢に次ぐ4番手につけている。
両者の得点差はちょうどダブルスコアと大きく開いているが、逃げきりたいハフ選手にとっても、追いすがりたいタルクィーニ選手にとっても、このチェコ戦は中盤戦の行方を占う意味でも勝利を手中におさめたいところだ。
車種別のトピックスと言えば、先のハンガリーでガソリンターボエンジンを搭載した、SUNREDのセアトについても気になる存在。
これまでディーセルターボのパワーで速さを見せてきたセアトだが、車両規定の変更に伴って排気量1,600ccのガソリンターボエンジンへの置き換えが進められることになる。その先陣を切るかたちでハンガリーから投入されたのが、SUNREDの3台なのだ。
レーマン・モーターテクニック社と共同開発されたエンジンは予選から速さを見せて、TDIディーゼルターボエンジン車よりも高いトップスピードをマーク。決勝でも終盤までミシェル・ニュケア選手が5番手争いを演じるパフォーマンスを見せた。
SUNREDのジョアン・オーラス代表はWTCC公式ウェブサイトのインタビューに対して、
「エンジンはこれからの可能性をしっかりと証明してくれましたし、信頼に足るものだと思います。新エンジンは、開発当初よりも速くなっています。TDIはこれ以上改善する余地がありませんが、1.6Tにはまだまだその余地があります。今後も運転のしやすさとセットアップに焦点を定め、選手らがこのエンジンを最大限活用できるよう努力していきます」
とコメントして自信を見せている。
なお、ハンガリーではTDIエンジンを継続使用したタルクィーニ選手、ティアゴ・モンテイロ選手、アレクセイ・デュデュカロ選手についても、いよいよブルノからはこの新しいエンジンが搭載されることとなった。
最後に、こちらも激戦が続くYOKOHAMAトロフィー勢について。
ランキングトップに君臨するのは、今季YOKOHAMAトロフィーで既に3勝を挙げているクリスチャン・ポールセン選手(左写真)。
これに対して、ハンガリーの2レースでともにYOKOHAMAトロフィーの2位を獲得したハビエル・ヴィラ選手が、一気にポイントを稼いで累計得点でトップタイへと躍進した。
また、ハンガリーの第1レースで総合2位に輝いて地元の期待に応えたノルベルト・ミケリス選手。その後の第2レースがノーポイントとなったためにランキングトップを奪うには至らなかったものの、5点差で3位につけている。
4番手はダリル・オーヤン選手。こちらは開幕のブラジル、第1レースでリタイアを喫したものの、その後は調子を戻して着実にポイントを重ね、現在は41点で4番手。シボレー・クルーズ1.6Tを使うため、マニュファクチャラー勢と同様にプラス40kgの補正ウェイトがやや足かせになっている面もありそうだが、最後までトロフィー争いの一角を占める存在であり続けるのは間違いないだろう。