元F1ドライバーで、現在はモータースポーツに限らず、さまざまな分野でチャレンジを重ねる片山右京氏。
その新たな取り組みがGT300に挑む、グッドスマイルレーシングとのジョイントだ。そのチーム名より、痛車の「初音ミク」号を走らせる、と言った方が通りはいいはず。今年はFIA
GT3仕様のBMW Z4を谷口信輝選手と番場琢選手に託し、今まで以上に注目されているチームのスポーティングディレクターに就任したのである。
FIA GT3といえば、レギュレーションによって直線は速いが、コーナーが厳しいという傾向があり、その意味では今回Z4も苦戦を強いられるものと予想された。ところが、そのビッグトルクは2本の長いストレートだけでなく、コーナーとコーナーをつなぐ短いストレートにこそ威力を発揮。予選1回目こそトップを明け渡したものの、練習走行、スーパーラップと圧倒的なスピード差をライバルに見せつける。
その原動力のひとつは、今回ドイツから谷口選手がスーパー耐久をともに戦うエンジニアを招き寄せたこと。ベストなセッティングが迅速に施されたことで、自慢とするエンジンがより唸りを上げるようになったのだ。
「ここまでの2戦、いいレースはしてくれたんだけれど、細かいトラブルなんかもあったから、チームのみんなと『それ、だめだよ』って部分をつぶしていこうということになってね。お金の問題だってあるけれど、ドイツからエンジニアを呼ぶことにしたんだ。
その効果が得られて何より。強く言った手前、結果が出なかったら、まずかったからね」と片山ディレクター。
これまでピットで指揮を執るという経験はなかっただけに、アタックを見守る最中は、「見ていてドキドキしたよ!」と、現役時代に強心臓で知られた片山ディレクターも、立場が異なれば同じ心境とはいかないようだ。
当然、最前列から決勝レースに挑む、自ら携わるマシンを見守るのも今年が初めてのこと。
「ピットのタイミングとか、タイヤ交換とか、そういうのをきっちりやって、ドライバーを楽にさせないとね」と語っていたとおり、作戦面は大成功。また、谷口選手がしっかりリードも築き上げていた。
唯一の誤算は後半を託された番場選手がGT500の処理を失敗し、リードを吐き出してしまったことだが、僅差ながらも抑え切ってくれたことでホッと胸を撫で下ろす。
「所詮、僕のやっていることなんて小さなこと。でも、一緒にいてドライバーの気持ちだとか、監督の指示とか、作戦面のものとか間に入って、ちょこちょこリスクマネージメントをしているだけだから。でも、そうやってチームが強くなっていけば。番場君が最後に楽しませてくれたけど、自分が運転している以外で優勝したのは初めてなんで、やっぱり嬉しい。僕自身も勉強をさせてもらっているので、すごくためになっているし、楽しいですね」と片山ディレクター。
ポディウムの最も近くでドライバーふたりを誰より祝福していたあたりに、心からの喜びも感じられた。