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Race Report : FIA World Touring Car Championship Round 23/24 |
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世界各地を今年も転戦してきた、ツーリングカーによるスプリントレースの最高峰カテゴリーであるWTCC(FIA世界ツーリングカー選手権)。シリーズ終盤になってタイトル争いもヒートアップする中、今年もマカオ・グランプリで最終戦を迎える運びとなった。
前戦・上海国際で準優勝と優勝を獲得したロブ・ハフ選手がポイントリーダーで迎えた最終戦、しかしその舞台はストリートコースのマカオ。エスケイプゾーンが皆無でワンミスが命取りになるチャレンジングなコースは、時に多重クラッシュも発生して巻き込まれる可能性も高いだけに、タイトル争いの行方は最後までわからない。
しかしテストセッションこそホンダ・シビックを駆るティアゴ・モンテイロ選手がトップタイムをマークしたものの、2回行われるフリープラクティスではハフ選手がともにトップタイムを刻んで好調な滑り出しを見せる。ただ、ランキング2番手につけ市街地コースを得意としているベテランのアラン・メニュ選手も、ハフ選手から1秒遅れ以内のタイムでともに3番手につけて、虎視眈々と逆転を狙うポジションをキープしていた。
パッシングが難しいマカオゆえ、注目が集まった金曜日の公式予選。まずは予選で如何に上位のスターティンググリッドを獲得するかが、マカオ攻略の第一歩となる。
その予選、1回目でイヴァン・ミューラー選手を0.047秒という僅差で抑えてトップに立ったハフ選手。上位12台が進出した2回目の予選でもミューラー選手やメニュ選手というチームメイトを抑えてトップに立ち、第1レース(第23戦)のポールポジションを獲得した。
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WTCCの走行が無い土曜日は、各選手ともリラックスした中で来るべき決勝に向けての準備を整えていく。
そして迎えた日曜日、ここまで順調な仕上がりで好調さを見せるハフ選手がポールポジションに陣取り、第1レース(第23戦)がスタート。しかし、改めてマカオ・グランプリならではの“恐ろしさ”が実証される展開になろうとは、この時点で誰一人として予想出来なかったことだろう。
6.117kmのコースをゆっくりとマーシャルカーの先導で一周、アウト側にハフ選手、イン側にミューラー選手というフォーメーションでローリングスタートが切られた第1レース。マンダリンベンドでミューラー選手がハフ選手をかわしてトップに立つが、ハフ選手はメニュ選手を抑えて2番手に留まりリスボア・コーナーへ進入する。
このリスボアは多重クラッシュが起こりやすいことで知られるが、7番手のノルベルト・ミケリス選手のインを刺そうとした8番手メルディ・ベナニ選手、9番手のステファノ・ディアステ選手という3台が接触、さらにペペ・オリオラ選手も絡んでこれらのマシンが完全にコースを塞いでしまう。
当然、後続車は一歩も前に進めずコース上は大渋滞。セーフティカーが導入されたがレースは続行、シボレー・マニュファクチャラーの3台に加え、ガブリエレ・タルクィーニ選手、モンテイロ選手、ダリル・オーヤン選手というトップ6台が大きなマージンを稼ぎだすことになった。
2周目に入って先頭集団の6台がリスボアへ戻ったころには、既にレスキュー作業も終了してイエローフラッグも撤去されていた。2番手のハフ選手はリスボア進入手前でマシンを振ってミューラー選手を威嚇するが、ここはミューラー選手がしっかりトップをキープ。
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しかし4周目、勝ってチャンピオンを決めたいハフ選手が遂に仕掛けた。リスボア進入のブレーキング競争でイン側のラインをとったハフ選手はブレーキをギリギリまで遅らせてミューラー選手のインを刺し、トップを奪うことに成功。
見事なパッシングを見せたハフ選手だったが、まさか一寸の油断があったわけでは無いだろうが、ハフのマシンは再びストレートに戻ってくることなくピットへと進んでいった。誰もが目を疑う光景だったが、パジョール・ベントで勢い余って車体左側をバリアにヒットしてしまい、それ以上の走行を許されない状態となってしまったのだ。
このハフ選手のリタイアで、俄然勢いを増したのが2番手に繰り上がったメニュ選手。奇跡の大逆転チャンピオン獲得の可能性が高まっただけに、前を行くミューラー選手を激しくプッシュしていく。
一方のミューラー選手も、意外にもマカオはこれまで未勝利なだけに、シボレーのマニュファクチャラー最後の戦いとなる今回は、是が非でも初優勝を決めておきたいところ。しかしメニュ選手も気迫あふれる走りで8周目のリスボア進入から隙をうかがっていくと、山側区間に入っても軽い接触を伴うプッシングを見せる。これに対して一寸バランスを崩してヒヤリとさせたミューラー選手だったが、しっかり姿勢を立て直してトップのままレースを続行。
そのまま9周を走りきって、セアト時代も通じて初めてとなるマカオでの優勝を飾ることに成功した。また2番手はメニュ選手で、チャンピオン争いの決着は最終戦となる第2レースに持ち越し。さらに3位にはシビックのモンテイロ選手が食い込み、デビュー3大会(5戦)目にして表彰台獲得を実現した。
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インターバルをはさんで、いよいよ迎えた最終戦となる第24戦。泣いても笑ってもこれが今シーズンの締めくくり、第1レースをまさかのリタイアで終えたハフ選手もマシンを修復して9番手のグリッドにつけた。
リバース配置となるスターティンググリッド、ポールポジションはシボレー・クルーズを駆るアレックス・マクドワル選手。2番手はセアトのペペ・オリオラ選手、3番手にBMWのノルベルト・ミケリス選手とYOKOHAMAトロフィー勢が並ぶ。
スタンディング方式でスタートする第2レース、やはり好ダッシュを見せたのはBMWのミケリス選手。リスボアまでの区間でトップに立ち、隊列を率いながら山側区間へとマシンを進めていく。一方、YOKOHAMAトロフィーのランキング2番手につけるオリオラ選手は、ランキングリーダーのミケリス選手に食らいつこうとするも、マクドワル選手の前に出ることは許されず3番手のポジション。
しかし2周目、リスボアへの進入で今度はマクドワル選手がミケリス選手をパスしてトップを奪還。さらに逆転王座を目指すメニュ選手がオリオラ選手をかわして3番手に浮上すると、この周のうちにミケリス選手もかわして2番手につける。
ベテランの駆る青いシボレー、その勢いは留まることなく3周目にはリスボアでマクドワル選手のインに飛び込む。両者はそのままサイド・バイ・サイドの状態で山側区間の入り口となる右コーナーへ進入、メニュ選手がマクドワル選手を抑えて遂にトップへと登り詰めた。
そんな白熱したレースだったが、4周目のマンダリン・ベンドで一寸アウトにふくらんだマクドワル選手に対して、マシンのノーズを入れたミューラー選手。しかし、ラインを戻そうとしたマクドワル選手が接触してスピン、そのままガードレールにヒットしてマシンを停めてしまう。
このアクシデントでセーフティカーが導入され、コース上に散乱したパーツの回収などで時間を要したことからレース再開は9周目となる。
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再スタートした最終戦、残り2周のスプリントとなったが、リスボアの進入でミケリス選手を刺そうとしたオリオラ選手がインにマシンを振ると、少し遅れて同様にインにマシンを寄せたミケリス選手にオリオラ選手が接触。ミケリス選手はそのままスピンしながらガードレールに接触して、コーナーの先にストップしてしまう。
さらに、あろうことかガードレールとの接触で脱落したミケリス選手のパーツにオリオラ選手が乗り上げるかたちとなり、オリオラ選手までもがリスボアを曲がり切れずにガードレールの餌食となってしまった。
再びセーフティカーが導入され、レースはそのまま終了することに。
この結果、メニュ選手が優勝、ハフ選手が準優勝、ミューラー選手が3位でシボレーのマニュファクチャラー勢が表彰台を独占して、マニュファクチャラー参戦最後の戦いで有終の美を飾ることに成功。
2005年のWTCC発足からシボレー一筋のハフ選手は、悲願のドライバーチャンピオンに輝いた。
またYOKOHAMAトロフイーも波乱含みの展開となったが、2レースともに香港出身のダリル・オーヤン選手が優勝。シリーズトロフィーはハンガリー人のノルベルト・ミケリス選手が獲得した。
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■Driver Comment : イヴァン・ミューラー 選手 (第23戦 優勝) |
チャンピオン争いについては、私は上海国際で権利を失ったと判っていました。ハフ選手は見事でしたね!彼は偉大な勝者であり、チャンピオンに相応しいドライバーです。
私自身はマカオで初勝利を飾ることが出来て良かったです。これまでに優勝するチャンスがありながらも、今まで勝つことが出来ていませんでした。選手権争いは3位という結果になり、6シーズン連続でシリーズの表彰台に立つことが出来て、そのうちの3回がチャンピオン、2回が2位という結果を残せました。
シボレーの人々も、とても頑張ってくれました。彼らとレースを戦えて最高でした。この素晴らしい思い出を、私は生涯忘れることなく大切にしていきます。
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■Driver Comment : アラン・メニュ 選手 (第24戦 優勝) |
私にとって唯一残されたチャンピオン獲得の条件が、第2レース(第24戦)を勝利することでした。好スタートを切ることが出来て、オープニングラップも好調に終えられました。
マカオの決勝は僅か9周なので、前を行くマシンを早い段階でパスしようと心がけました。できる限りのことはしましたが、最後のレースで優勝を飾ることが出来て、今シーズンを気持ちよく締めくくれて良かったです。
今シーズンは、とても良い一年でした。もう少しの幸運に恵まれ、不運が無ければ、もっと良い結果になっていたかもしれませんけれどね(笑)。いずれにしても、シリーズ2位という結果を残せたことに不満はありません。
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■Driver Comment : ロブ・ハフ 選手 (2012年・ドライバー部門チャンピオン) |
今の私には言葉がありません。チャンピオン確定の実感が沸いてくるには、まだ時間がかかりそうです。
このレースウィークは本当に感動的なものとなりました。第1レースでやってしまったクラッシュのせいで、一時は全てを台無しにしてしまうかと思っただけに、最高の一日となりました!
あのクラッシュは、リスボアでミューラー選手をインから抜いて嬉しかったのですが、喜ぶ暇も無く半周を走ったところでコントロールを失ってしまいました。なんて酷いミスをしたかと自分でも思っていますが、ハッピーエンドで終われたので、あれは無かったことにしてください(笑)。
なにより、僕がピットインするとチームの全員がマシンに飛びついて、第2レースまでの限られた時間で最高の仕事をしてくれて、第2レースでマシンは完璧な状態に戻っていました。RMLチームのみんなにお礼を言わなければいけません。
第2レースは得点差にまだ余裕があることも判っていたので、例えミューラー選手やメニュ選手が優勝しても、僕は6位以上でフィニッシュすれば逃げきれる状態でした。セーフティカーが出た後、僕は5番手にいましたから、これ以上ほかのミスを犯さないように集中して走りました。
チームが2005年に僕を採用したときはギャンブルだったでしょうが、今日は彼らが僕という正しい選択をしたことを証明できたのではないかと思っています!
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■Driver Comment : ノルベルト・ミケリス 選手 (2012年・YOKOHAMAトロフィー
チャンピオン) |
私たちは今シーズンに臨むにあたり、3つの目標を立てました。選手権のドライバーチャンピオン争いで9位以上を獲得すること。レースで総合優勝すること。そして、YOKOHAMAトロフィーを獲得すること、です。
これらの目標は全てを達成することが叶い、自分自身にとってもチームにとってもとても喜ばしい成果を残すことが出来ました。
ただ、シーズンの最後をこのように奮わない結果で終えたことは、ちょっと後味が悪いですね。過去の3大会では合計で僅か5点しか獲得出来ていなくて、今日も第2レースを良いペースで走っていたのに、オリオラ選手のミスで僕たちのレースは台無しになってしまいました。
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