ブラジル、メキシコと序盤の南米ラウンドを終えて、長めのインターバルをはさんでいたWTCC(FIA世界ツーリングカー選手権)。
第3大会はWTCCにとって初上陸となるアフリカ大陸、モロッコのマラケシュ戦である。この国でFIA世界選手権が開かれるのは、サーキットレースでは1958年のF1・カサブランカGP以来、実に半世紀ぶり。
今回はモロッコ第3の都市、マラケシュの市街地に用意された特設コースでのストリートファイト、大勢の市民から注目を集める中でレースは行われた。
なお、先のモロッコ戦プレビュー記事でも解説したように、この大会から今季導入されることになった「補正ウェイト制度」が施行される。
これは過去の大会の実績に基づいて車種ごとにウェイト調整を行うものだが、さらに大会直前になって新たな措置が発表された。それはBMWのインディペンデントトロフィー勢については、最低重量を15kg軽減するというものである。具体的にはモロッコに参戦するなかで、ステファノ・ディアステ、フランツ・エングストラー、クリスチャン・ポールセン、ジョージ・タネヴ、フェリックス・ポルテイロ、ヴィト・ポスティリオーネの各選手が対象となる。
またモロッコ戦直前の話題といえばレースそのものには直接関係ないが、日本のWTCCファンに是非お伝えしておきたいことがひとつ。
WTCCの公式ウェブサイトに、待望の
日本語公式サイトが設けられたのだ。
ウェブサイトでの情報発信も充実しているWTCCだが、これで更に日本のファンにとってはWTCCの魅力を知ることが出来るようになる。今後は
ADVANモータースポーツサイトから発信される情報と合わせて、ぜひこまめにチェックしていただきたい。
さて、初開催の市街地コースということで金曜日にテストセッション、土曜日も予選前に2本の練習走行が設けられたマラケシュ。
ここまではセアトの"イエロー・トレイン軍団"による独壇場となり、テストセッションでイヴァン・ミューラー選手がトップタイムを叩き出したのを皮切りに、練習走行は2本ともにセアトのTDIエンジン搭載車がトップ5を独占したのである。
ところが予選になると風向きが変わっていった。
QF1ではシボレー勢が躍進、トップタイムのアラン・メニュ選手を筆頭に、ニコラ・ラリーニ選手、ロブ・ハフ選手が続いてトップ3を独占。
これにセアト・TDI勢のうちリカルド・リデル選手を除く4台が続いていく。苦戦を強いられたのはBMW勢で、8番手のアンディ・プリオール選手、9番手のヨルグ・ミュラー選手、そして10番手に食い込んだインディペンデントトロフィーのフランツ・エングストラー選手というトップ10がQF2へ進出する権利を獲得した。
QF2もシボレー勢が好調さをキープ、ロブ・ハフ選手がトップタイムをマーク。
これに同じくシボレーのアラン・メニュ選手が続いたが、QF1が終了して車両重量の計測を行った後、自力でピットまで戻れないというトラブルがあった。このためにメニュ選手は降格処分を科されることになってしまったのだが、QF2でも終了間際に単独クラッシュを喫してしまい、アンラッキーな一日となってしまった。
結果的にはロブ・ハフ選手がポールポジション、この後ろに3台のセアトが並び、5番手にはやはりシボレーのニコラ・ラリーニ選手がつけた。
厳しい結果となったのはBMW勢、予選トップはインディペンデントトロフィーのフランツ・エングストラー選手。インディペンデントトロフィー勢に適用された15kgの最低重量軽減も功を奏したようだ。
日曜日の決勝は市街地コースということで波乱が予想された。
現地時間の13時05分にスタートが切られた第1レース(第5戦)、1コーナーはポールポジションのロブ・ハフ選手がトップをキープ。しかし後方は団子状態となり、行き場を失ったセアトのリカルド・リデル選手がタイヤバリアにヒットして足回りを破損、回収作業のためにセーフティカーが導入される。
レース再開後も安定したラップを刻んだのはトップのロブ・ハフ選手、追ってくるセアトのガブリエレ・タルクィーニ選手を巧みに牽制してポジションを譲ることなくトップチェッカー。
今季から投入されたニューマシン「シボレー・クルーズ」の初優勝を飾り、ウィニングランでは車内で何度もガッツポーズをして嬉しさと興奮を表していた。
またインディペンデントトロフィーを制したのは、メルディ・ベナニ選手。初めてのWTCCモロッコ開催に初参戦を果たした地元のドライバーが優勝を飾り、表彰台は大いに盛り上がりを見せた。
ベナニ選手は1983年生まれ、モロッコでレーシングカートでの好成績からレースに転向、ユーロシリーズF3000などを経て今回のWTCC参戦となった。
第1レース終了から約30分のインターバルを経て、各車は第2レース(第6戦)のスターティンググリッドに向かう。この時点での気温は28.4度、路面温度は54.4度、天候は晴れでもちろんドライコンディション。
スタンディングスタートの時を迎えることになるが、ここでセアトのジョルディ・ジェネ選手のマシンにトラブルが発生、ジェネ選手を一人残してレッドシグナル消灯とともにレースはスタート。
第1レースで8位だったBMWのヨルグ・ミュラー選手がポールポジションから、これにアラン・メニュ選手とニコラ・ラリーニ選手というシボレー勢が続いて第1ターンに入っていく。
続く第2ターンで仕掛けたのはメニュ選手、しかしオーバーランで大きくアウト側に膨らんでしまいトップは奪えず。コースに復帰するも、ラリーニ選手が先行して3番手に後退。
そのころ後方ではクラッシュが発生、第1レースに引き続き、第2レースもオープニングラップからセーフティカー導入となってしまった。
セーフティカー解除後はメニュ選手に代わって2番手に立ったラリーニ選手が執拗にトップを行くミュラー選手をプッシュ。中盤にはサイド・バイ・サイドに持ち込み、パッシングポイントの限られる市街地コースで手に汗握るドッグファイトを演じる。
そして8周目の最終コーナー、ミュラー選手が姿勢を崩して外にはらんだ隙を逃さず、ラリーニ選手が前に出て遂にトップを奪う。
さらに終盤は2番手に後退したミュラー選手を、3番手にポジションアップしていたロブ・ハフ選手がロックオン、ファイナルラップまで随所でパッシングを浴びせてプレッシャーをかけ続けた。
しかしここはミュラー選手が抑えきってポジションを譲らず。
結果、ニコラ・ラリーニ選手が堂々のウィニングチェッカー。2005年のWTCC発足からシボレー一筋で参戦を続けてきたラリーニ選手にとっては、嬉しいWTCC初優勝となった。
2位はヨルグ・ミュラー選手、そして3位は第1レースの覇者であるロブ・ハフ選手が2戦連続で表彰台を獲得。
インディペンデントトロフィーはフランツ・エングストラー選手が優勝、ランキング2番手につけることとなった。
なおレース終了後にBMW Team Germanyが抗議を提出。セアトのターボディーゼル勢について、最大過給圧の規則適合性が再確認されることとなり、レース終了から9日目の5月12日(火)になってティアゴ・モンテイロ選手の第2レース除外処分が発表された。